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寒い日だが暖かなコンサート

本日、小降り雨が降るなか川口のリリアにイザベル・ファーストを聴きにいった。客はコロナ下のなかでほぼ満席といえる50%の入り。サイン会はなし。花束も禁止という寂しい規制が入ったコンサートであったがアンコールも3曲やってくれるほどの盛況で客層も暖かい。客層は中高年が多いけれども男女ほぼ均等、若い方もちらほらといた。演奏後のロビーではよくぞ日本に来てくれたと言っておられた人がちらほらと。私のホームグランドのトッパンホールのマニアックな客層とは雰囲気が随分と違うね。

プログラムは以下。

[プログラム]
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ短調 op.105
ウェーベルン:ヴァイオリンとピアノのための4つの小品 op.7
ブラームス:ヴィオラ・ソナタ第2番(ヴァイオリン版) 変ホ長調 op.120-2
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第2番 ニ短調 op.121
アンコールはシューマン幻想小曲集op73

なかなか渋いイザベル・ファーストらしいプログラミング。最近、彼女はバイオリンの女王と言われているようだが、前女王?のムターのような華やかさはないので女王というのはどうかと思う。派手さはないが、楽曲の深読みに定評があり、よく聴く曲でもハッとさせられることがよくある。典型的なのがシューマンのこの2つのソナタで、普通のバイオリンニストは情熱的に弾く。バイオリンで弾くのが非常に難しいのでそうなってしまってそれはそれで一生懸命感が伝わってよいのだが、イザベルにかかれば超絶技法を感じさせることもなく、丁寧に音を拾いながら、抑制の聴いたビブラートで聴かせていく。女王というよりもバイオリンの語りべと呼んだ方がしっくりくると思う。そんな彼女に挑戦するかごとく、ブラームスのビオラソナタ編曲版で、Wikiにはこのように書かれている。

ヴァイオリン版はこの楽器の低音部に音域が集中してしまっており、クラリネット、ヴィオラほどの演奏効果をあげないため演奏機会はあまりない。

でもイザベルにかかればとても魅力的な曲に変身してしまう。これこそがS級上位のバイオリニストの面目躍如といったところだ。

個人的に気に入ったのは、ウェーベルンで、下手な人が弾くとガラクタにしか聴こえないのだけれども、ウェーベルンの指定した多彩な音色指定に忠実に丁寧に表現。超弱音から唸る強音まで驚異的なダイナミックスでの表現力はさすがというしかない。

相棒のメルニコフ。凄腕ピアニストなんだけれどもまったく自己顕示しないでイザベルにぴったりと寄り添う姿勢を崩さない。このように書くと消極的に感じるかと思うが、イザベルとの楽曲解釈をゆるぎないものにしている縁の下の力持ちで、どちらが主導権をもっているのかインタビュアには尋ねてみてほしいところ。メルニコフの解釈力も相当なものだと思うのだよね。

あと気になる点は、こんなに家から近くにあるホールなんだけれどもプロのコンサートは初めて。パイプオルガンが備え付けてある中型のホールでカッコイイのだけれども、バイオリンには厳しいホール。音が上に抜けて、反響音もかなり硬質。立つ位置によって響きが随分と変わる。10cm程度でも相当に変化する。このためかイザベルも少し戸惑った感じを受けたが、さすがだね。立つ位置を微妙にさぐりながら後半ではステップを前に出したり後ろにひっこめたり、バイオリンの角度を客席側にもってくるなりして、ホール残響をコントロールしつつ音楽を聴かせていた。場数がすごいんだろうなあ。

個人的に思うのは、パイプオルガン下に調音材(音響調整パネル)を貼って音を少し拡散させるだけで弦楽器に優しいホールになると思うのだけれども。トッパンホールは参考になるかな。それにしても、イザベルは彩の国さいたま芸術劇場とかリリアとか埼玉のホール好きだよね。

リリアホール


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