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女王を10倍楽しんできた

本日は、ムローヴァ様のコンサートということで浜離宮朝日ホールへ。ムローヴァ様ですから、いきなりこれだよね。これがないとコンサートに来た気がしない。

いつもの注意書き

今回はサイン会もアリとのこと。ムローヴァ様のボーイングを観察するために特別に取っておいたチケットをもって2階L席へいくと、おや、なんだこれは!

フォルテピアノだと!

さすがムローヴァ様、ベートーヴェンを正確に演奏するためにフォルテピアノを持ってくるとは。ベートーヴェンのバイオリン・ソナタはフォルテピアノの方が絶対によいですからね。グランドピアノだと音が大きすぎてバイオリンの邪魔になるし、音色もベートーヴェンにはあっていない気がしますね。フォルテ・ピアノは余韻が長くないのでバイオリンの邪魔にならないし、低域はコントラバスみたいな感じで、より不気味でゾクゾクしてよいですね。特に7番はフォルテピアノでないとベートーヴェンの作曲意図が表現できないように思います。

ここでムローヴァ様のコンサートレシピを解説しておきます。

基本ヴァイオリンはガダニーニ(ガット弦、ピリオド仕様)とストラド(ジュールズ・フォーク、モダン仕様)を2台もってきて弾きます。
チューニング、駒とネック高さが変わり、弦のテンションも変わるため2つの楽器を同時に扱うことはかなりリスキー。バイオリニストで両方できる人もいますが、1つのコンサートの中でこれができるのは女王のみ。
演奏会中の無駄な拍手は厳禁。
作曲家をリスペクトし楽譜に忠実に演奏しつつも、驚異的な集中力でするどく切り込んで行くタイプ。作曲家の生存していた時代の楽器や弓を使いつつ古楽奏法に現代的な部分も入れてくる。今回はベートーヴェン時代の弓を使い奏法も古楽奏法的に弓のフロッグの前をつまむスタイル。ただし肩当てはしておりましたね。
抜群の安定感。スピカート、スタッカートが鋭い。
超絶的なテクニックがあるので現代音楽作品も余裕。武満、ペルトともに理想的な演奏を披露。ヴィブラートがすごく美しい。
演奏プログラムが独特で、日本人作曲家をいれてくるが、お情けで弾いているのではなくて徹底的に研究して弾いている感じ。邦人作曲家に対するリスペクトをすごく感じますね。やはり最先端のクラシック音楽を最高の演奏でやってやるという自負があるんでしょうね。
クラシック音楽の頂上を目指す、もう一人の女王であるイザベル・ファウストとは全然タイプが違うのが面白いですよね。


こんな感じですが、観客の方も随分と慣れてきて、『武満とペルトの間に拍手を入れないの大正解だよね』とかあちらこちらで聞きました。最初のころは観客も前代未聞の緊張感でしたけれども。拍手をどこで入れるかも随分とわかってきていますね。ムローヴァ様自身も今回の来日をすごく楽しみにしていたのでしょうね。いつもと違って演奏中ずっと笑顔でした。

今回の感心したのは、ペルトのフラクトレス。なんか現代のバッハのシャコンヌという感じで演奏する人が増えているのですが、音色の研究がイマイチな場合もあってがっかりすることもあるのですが、さすがムローヴァ様は完璧でしたね。そして、ピアノ奏者のビートソンが突然入ってくる感じが、ラヴェル先生の左手のための協奏曲みたいで、めちゃくちゃかっこよかったです。ビートソンも繊細なフォルテピアノを弾いたあとにグランドを弾くのはかなり大変だった思います。

あとバイオリンの勉強になりますけども、前回のブログで紹介しておいた花岡先生の楽曲分析とバイオリンの音色を結びつける理論を、ベートーヴェンの7番で予習しておいたので、ムローヴァ様が弓のどこの位置を使って演奏するのか、あるいは弓を離すのか、返すのかと予想しながら、野球放送のストライクゾーンフレームのようにして観ていたのですが、花岡先生のおっしゃる通りのボーイングで演奏していましたね。特にスピカートする部分は弓の真ん中上と下を使い分けながら音色変化をつけていたところとかすごく勉強になりました。ヴィルトゥオーソ弾きとはこういうことね。ふむふむ。
ムローヴァ様は弓を4分割して考える方法によってコントロールしてますよね。この辺は基本に忠実。

ベートーヴェン特有の強烈な強弱表現。激しく奏法が変わるので弓使いがかなりムズカシイ。
楽譜通りに弾きすぎると、ヒステリックになるので加減がムズカシイのにピアノが煽ってくると騒がしくなる。こんなところの表現はピアニストと綿密に打ち合わせておく必要がある。
聞いている方はコブだらけ斜面をすべるスキーの大回転をみるような感じになりますね。
良い先生に学ぶと弓のどこを使って弾くのか徹底的にしごかれます

イザベル・ファウスト、ムローヴァ様の模範演奏が出てきたのでそろそろドヤ顔で演奏するベートーヴェンは終焉を迎えたということでしょうね。次はフォルテ・ピアノでの伴奏が流行ってほしいですよね。

●プログラム 11/20(日)
使用楽器:ガダニーニ(ガット弦)/フォルテピアノ
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第4番 イ短調 Op.23
L.v.Beethoven Violin Sonata No.4 in A minor, Op.23
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第7番 ハ短調 Op.30-2
L.v.Beethoven Violin Sonata No.7 in C minor, Op.30-2
 
使用楽器:1723年製ストラディヴァリウス「ジュールズ・フォーク」(モダンの弦)/モダン・ピアノ
武満徹:妖精の距離 ヴァイオリンとピアノのための
T.Takemitsu Distance de fée for violin and piano
ペルト:フラトレス A.Pärt Fratres
シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのロンド ロ短調 
D895 F.Schubert Rondo in B minor, D895



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