手に入らないとなおのこと欲しくなる

 『頁をめくる音で息をする』藤井基ニで紹介されていた伊藤茂次の詩を読みたくて、伊藤重次と検索窓に入力した。

 ・・・この男が書く詩がたまらなくいいのだ。あまりにも悲しみが突き抜けている。読んでいて明るい気持ちにはならないのに、何くそと無理やり絞り出された声に励まされる。 

『頁をめくる音で息をする』藤井元二p116

 上位に表示されたのが、弐拾dB通信販売所と龜鳴屋で、どちらも伊藤茂次の詩集は完売していた。amazonなんかでも調べたけれど、どこにも売っていなかった。手に入らないと思うと、なおのこと欲しくなったが、どうしようもなかった。
 それならというか、藤井基ニさんが憧れている中原中也の詩集を読もうと思って、蔦屋書店に行った。読んでみたいと思った本がなかったので、図書館に行くことにした。久しぶりの図書館だった。図書館でも、読みたいと思った本はなかった。図書館だし、とりあえずという気持ちで、少年少女のための日本名詩選集を借りてきた。
 詩だけではなく、中原中也の生い立ちなんかも書かれていて、私みたいな者には、ちょうど良い本だった。

ポッカリ月が出ましたら、
船を浮かべて出掛けましょう。
波はヒタヒタ打つでしょう、
風も少しはあるでしょう。
沖に出たらば暗いでしょう、
櫂から滴垂る水の音は
ちかしいものに聴こえましょう、
あなたの言葉の杜切れ間を。
月は聴き耳立てるでしょう、
少しは降りても来るでしょう、
われら接吻する時に
月は頭上にあるでしょう。
あなたはなおも、語るでしょう、
よしないことや拗言や、
洩らさず私は聴くでしょう、
けれど漕ぐ手はやめないで。
ポッカリ月が出ましたら、
船を浮かべて出掛けましょう、
波はヒタヒタ打つでしょう、
風も少しはあるでしょう。

中原中也『湖上』

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