[commission]男装冥土喫茶

この頃、いわゆるメイド喫茶で職を得た。
身長も154cmだけど、顔面はボーイッシュ(時代に適さない表現ではあるが)私は、人員不足の水商売にはすぐに採用された。

メイド喫茶と言えば、オムライス、ネルシャツ、とくせい:あくしゅう
の三大汚点をイメージするやも知れない。

だが、特殊なことに職を得たのは、「男装メイドカフェ」である。
某JR東京のオレンジの鮨詰め電車と自殺駅まで行く電車の合同通過駅。
万世橋を見上げるスラムの住人。

男装メイドカフェと云ふのは、つくづく特殊な環境で或る。
あくまで「ボーイッシュな女」を求めてやって来るご主人様も居れば。
私に本気で恋をしているポーズをして、それに浸っているお嬢様も居る。

正直、業務はあまり得意ではない。
遅刻をしたり、飲み物をこぼして弁償したり、いいことばかりではない。

帰りも深夜、いい様に依っては早朝にもなる。
お酒は吞めないし、タバコなんて美容の敵以外の何物でもない。

ストレスを解消する行為はたった一つ、カラオケで或る。
「幼稚」「友達いないの?」
聞き飽きた。耳にタコができて悪口にはすっかり聾者に成った。
他人からのリファレンスを受けられないことを、法律のやうに善惡で捉えることはできない、と思う。多分。

学生時代はあまり思い出したくないが、どうせなら話そう。
XX染色体で生まれた。
中学校1年頃は割と、なんというか、ウケた。XY染色体に。
低身長で、眼が大きくて、いつも笑って居ればXYは錯覚するのであろう。
単純で、シンプルで、交際、交際、交際

しかし高校1年生のころ、不覚にも一目ぼれ、を経験して了った。
難点が一つあった。"彼女”は同性愛者で或ったのだ。
今でこそ騒ぎ立てデモ行進を起こすほど権力を持った存在であるが、あの頃は圧倒的に「性的少数者」と呼ぶに相応しかった。

それは、彼女の部屋に遊びに行ったときの出来事であった。
「ユーちゃん、私、あんまり言いたくないんだけどね。」
彼女の症状は、台風の空の様に曇っていた。
「ユーちゃんなら、誰にも言わないと思って。」
「私ね、女の子が好きなの。変だよね、男の子としか結婚したり、子どもを作ったりできないのに。」
シャワーを浴びたが如く、彼女の顔は体液まみれで或った。

そのとき、自らの中に眠る劣情が勝って了った。
ヴァージニア諸島をゴミ箱に投げ捨てたのである。

そんな彼女は、数ヶ月後に退学した。
なんでも両親の都合と聞いたが、良心の呵責であることは私にとって明白だった。

高校を卒業して、就職活動を始める。時期。
しかしなんだか、乗り気に成れなかった。

あの時彼女と感じた世界、彼女への醜い執念のようなものが、ぐつぐつと。

なんだか、持て囃されるこの乳房も、身長も、総て嫌いになって仕舞いそうになった。私がXYだったら。でも彼女はXYは苦手だし、なんていう詰まらない感情が毛布の下で渦巻いた。


美容室に行った。
ウルフカットで、とだけ告げて。

見違えるようで或った。
硝子、ショーウィンドウに映ったのは、自分自身でない誰かだった。
しかし、自分自身そのものだった。

美容室帰りのネオンライト街、スカウトされて男装メイドカフェに勤め始めた。
なんて言うのはありきたりな御伽噺で、端から端まで面接を受け続けた。

遂に合格した。

お嬢様のファンレターを読みながら、ふと自らの過去を話したくなった。

彼女がどこに行ったのか、誰も知らない。
誰も興味がない。
私は彼女にいつか逢えると信じて、神のような奇蹟を信じて、生きるのみ




































































 




















































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