見出し画像

最後に錠を閉めたのは 1ワタシ 2ムスメ 3フケイ それとも 4?





「キレた。」
          キレると怖い私がキレた。



大阪は秋だというのに、
       まだ汗ばむ日々が続いていた。





最後に錠を閉めたのは

ワタシは13才のムスメを持つバツいちオンナ。

つい先日までナースとして介護業界の隙間バイトとセラピストとしてリラク業界のバイトを、
ほぼほぼなくらいで主たる生業としていた。

次の夢である開業のため。
夢はヒーラー、癒し手である。



しかし、タイホされてしまった。フケイに…
このタイホが夢への第一歩であるか、後退か。
人のせいにしない私は、自分次第だ。
               と覚悟した。




容疑 暴行罪
告発者 ムスメ



ワタシはタイホされた。留置所のないプレハブの警察で、調書がとられ、救急外来で常備薬をもらって拘置所で一泊した。


未決囚と、
死刑の言い渡しを受けた者を収容する拘置所。

拘置所での出来事は書きたいところだが本筋には関係ないので割愛する。


一泊体験ののち来た先、おなじみ精神科病棟内保護室。どの病院も原理は同じ。
緊急措置入院•措置入院の手続きの元、
               やってきた。



この事件、自宅で発生し携帯電話だけ持って拘束された。よってワタシは鍵を閉めていない。

同じくムスメもおそらく何ももたずジソーへ行ったろう。よってムスメも鍵を閉めていない。

病棟へはフケイからと鍵を返された。
    よってフケイの誰かが閉めただろう。

しかし、もしも過去の自分が仕組んだわなか。
未来から来たワタシからのアシストだろうか。



再び時を戻し、扉が開かれる。
 20日ぶりに、第三者の手で扉が開かれる。



きっとそこにはこの物語のヒントが
             残されている筈。





最初に錠を開いたのは、ワタシの母。
指示された手紙通りに送られた鍵で開ける。
なんの変哲もない印象。
警察が片して行ったのだろうか。
いや、あの子にしては整いすぎてやしないか。というぐらい。

指示されたものを探る。ないものもある。
ないことはない……
違うところにあるのだろうか。

気にしていたカレーの鍋を磨き、炊飯ジャーを洗い、ゴミを捨てる。
案外、3週間開けてたと思えない匂いだった。

以上をまとめて伝える。
あの子はいま神経質で、すぐ電話を切りたい。
長話になりそうなので夫を引き合いに
               電話を置く。
いつも入院となると家族への当たりが強い。
             ……無視に限る。




いつも通り、精神科患者になった途端、他人扱いをする母。慣れている。臭いものには蓋。
ソレ。

行き場のないものが行く場所、警察、精神科。
治療という名の監禁である。

中に純粋な二大疾患、
統合失調症と双極性感情障害患者もいる。

この純粋な疾患患者はピュアよりピュアな
個の持ち主であった。
そのエピソードは後ほど。



今回のこの家の放置も母が気にしていたところ。フケイにどんな迷惑をかけたかが気になったのだろう。

案の定、やっぱりあるべきものがない。
不要なものがある。

これは、いわゆる「もの盗られ妄想」にカテゴライズされる。認知症のそれと似ている。
いつもいつも不思議と不調のある時にはつきまとう現象。

今回は検証できるよう、鍵を開けたあとの現場を写真に収めてもらった。

フケイが来た時、ワタシが準備していたもの。

新しいジャージ、子供のジャージ、下着(中に子供の下着も在中)、パソコンのバッテリー、メモリカード、携帯のジャック、彼のわんこへのお土産、筆箱、長崎のガイドブック。

ワタシはどこへ行こうとしていたのか。精神科の用意をしたつもりだった。

長崎関係は不要、子供の衣類も不要。

 気が動転していた。

いつもそう片付ける。
けれどそこに意味があるのだけれど。
やっぱり、不要としながらも役に立つ。

ワタシは今回は未来のワタシが、過去やらかしていたワタシにアシストしてこの荷造りをさせたと想像する。

ファンタジーとも読まれてもいい、
でもあながち現実的に発信している。




ワタシがフツーに暮らす時、
皆がみな、精神病持ちではないという。
霊性が高まる。この形容が似つかわしい……
のだと。

たしかに初めてその傾向があった時は、精神病特有のアクションを起こしたこともある。
人間だから、尊厳を失うと獣になる。
それだけ。

もう慣れたもので、影で獣になればいい。
日のあるうちは尊厳がなくても人間であった。
囲われた生活、興味がある人はやればいい。
ここのナースもきっと一泊すれば
態度は変わるだろう。

ワタシが人間であり獣の本能を持ち合わせていることを自覚してる以上、突破は容易だ。


ないものは……
今のところ合鍵と現金9万など貴重品らしい。





退院したらまず被害届を出しに行こう。
        あのフジタのいるフケイに。




あの親が来た。
そう、さかのぼること45日ほど前か。
子供の声でSOSを受けたあの日。

フジタは要請を受け、
某マンション一室に居る13才の少女から
事情を聞いた。
事件発生17:02、彼女宅で一緒に暮らす母から殴る蹴るの暴行があったと。
さいわい無傷。
こういった事案があるたび心が痛む。
弱者がいつも犠牲に。このオンナもか。

フジタは少女を託し、母親の元へ行く。
女性の容疑者が事件後に何か言ってきても困るため、連行する際はひとり女性警官がつくルールなのだ。
くしくも少女をやったオンナ。

が今回のオンナは様子が変だ。動揺が見られない、反省もない。刑事課に託してしっかり反省してもらおう。

雑用を済ませてもまだ調書がすまない。
トイレの要求が多い、
その度に呼び出しにあう。
女として警察署で働く意味。
都合よく使われている。とは思いたくないが、トイレのドアに足を挟み、容疑者の片手の錠を解き腰縄に力を入れて待つ。
仕方のない業務。

力もない、足も男より早く走れない。
そのぶん頭の良さは評価して欲しいが、
決まってこういう役回りは女だから……
という理由づけ。
女だから、弱者の目線に合わせて被害者に
寄り添うことができる、
女にしかできない業務も悪くない
と思い出したこの頃。
劣等感とさよならしたはずなのに。
ヒトの小用の音を聞きながらうんざりする。

調書がおわったので拘置所へまたフジタがついて行く。今日も残業……



あの日だ。

そしてあのオンナは釈放された、残業したのに……

「紛失?」鍵? 現金? こっちが疑われる?
警察が泥棒なんて聞いたことない。
なんなんだ、あのオンナ。
証拠があると写真を持ち込み、届けを出す権利を主張している。


本職が最後に施錠しました、上司に伝える。


何? この茶番。こんがらがってきた、
あの日のこと、あの日のこと思い出そう。






       -最後に錠を閉めたのは  了




最後に錠を閉めたのは-備忘録


精神科病棟、閉ざされて暗い空間な想像ですが、あながちそうではなく。

色んな少女たちが息をしています。彼女たちの世界観で。

病棟の第二リビングには大きな窓があり、秋から冬にかける澄みわたった群青いろの背景が舞台になりました。



《独語の少女》

彼女とは保護室の隣でした。
保護室とは閉じ込め部屋です。
いわば。

ナースコールもない、
叫んでも響くだけ、
誰も来ない。
当初、おしっこも流されないと思って
半日ほど溜めてました。

そんな部屋でした。

彼女は保護室ながら廊下が歩ける自由を
持っていました。
私の前に現れた時、
わたしはドアの窓にへばりついて、
ドアから見える外の景色を見てました。

彼女もその光たちが好きで
良く歌っていました。

わたしはまだ未熟で、
景色から彼女を排除しようと
ドアを叩き威嚇音をだして、
その光たちを自分のものにしました。

まだ彼女を知らなかった時。

しばらくして彼女がわたしのドアへ
近づいてくるようになりました。
はじめはおどけていたけれど。

わたしは少し落ちつき、
保護室から少しずつ解放されました。
彼女の行動範囲はそのまま。
わたしは段階を経て自由な4人部室に
なりました。

彼女も良くなったのかな、
「寝る時だけ保護室」と行動制限が
解除されました。

昼間のリハビリ活動を一緒にしたり
独り言は続いていたけれど、
手を振ったり、会釈したり。
ときどき彼女の興味を聞いたけれど。
やっぱり外が好きで、
窓際で笑いながら独り言を言ったり
歌ったりしていて。

きっと彼女には素敵な世界が
見えてるんだなって、
微笑ましかったです。

身なりはサッカーのTシャツを着ていたり
可愛らしいノースリーブを着ていたり。
きっと親御さんも心配で
沢山の洋服を差し入れたんだ
と思っていました。

心配だろうな、
良くなって欲しいだろうな。
と勝手に想像していました。

さよならの前日、
主治医との面談をしていました。
私が動画を見るベンチの隣で。


・まる一年の入院
・保護者は行方不明
・慢性期病棟へあす転棟
・見つかり次第施設へ入所


世の中厳しいな。と思いました。

彼女が初めて発したコトバ。
「ハグしたい、していいですか。
頭撫でたい、いいですか。」
わたしは体も頭も差し出しました。

「がんばりや悪なってもいいねん、
また良くなるから離れるけど味方やよ。」
ハグしながら
わたしが最後に言ったコトバ。


誰かに伝えたくて綴りました。 



《桃太郎侍な少女》

引きこもりといえば、
部屋に篭っているイメージでしょう。けれど彼女は家と同じく病棟を使い始めました。
そう、パーカーを引っかぶり、
顔と上半身を隠して。

あまり彼女が出没しなかった時代、
彼女の個室から聞こえる鍵の音。
オートロックを解除し、
オートロックは施錠し、の攻防音。
ウィーンとガチがしばらく続き……

部屋の前のベンチでは老人たちに噂され、
わたしはそれを聞くけれど。
ウィーンとガチはわたしには助けて……
に聴こえました。

かなりしばらく続くウィーンとガチ。
背景はわかりません。
両親がどんな思いでここに連れてきただろう。
素直に従ったかな。

彼女は、雑誌をあさりに桃太郎で
本棚へ来ることができます。
本棚のすぐそこのナースステーションには
来られない。
だから、いつも食後は自室扉の外の廊下に
そっと置かれた食器で「ごちそうさま」

考察してみると
本は取れて食器は返せない。
物理的な問題ではない。
看護師たちと
無駄に接触したくないなんだろう……

合点。
コミュショ中のコミュショ。
わが子とおなじカテゴライズ。
かわゆいのひとこと。

そんな彼女も日を追って行動範囲が広がりました。
第二リビングの
チャンネル権を奪還してくれたのです。
買いもしないのにショップチャンネルをかけ
居眠りする退院浪人の親父から。

素敵すぎる彼女をわたしは応援してる。
なぜなら彼女の選局センスが好きだから。
ときどき、気が向いたら彼女の後ろに座り
テレビ時間を共有しています。
彼女が嫌でなければ。。


顔や声には興味ない。そのまま、そのまま。
桃太郎のままで、あなたはいいんよ。


そんな最近を知って欲しいな



《妄想少女》

初めて出会った開口一番。
「わたし○○○○といいます、統合失調症なんです、今回で6回目なんです、228号室の方ですよね、お名前確か…」

この日、速攻でわたしは自室前の名札をひっくり返し「使用中」に変えました。

患者名を把握し流布するタイプ。
気をつけよう。

次の日から名前は伏せて、接しました。
生いたちや家庭環境などさらけ出せる純な子。
どうやら家族はきちっとしているみたい。
ただ彼女の陽の中の陽な部分に疲れた、
それだけ、でもそれだけに思えました。

彼女もまた保護室で出会いました。

みなが見るテレビを放送大学に切り替え、
ノートをとってました。
……とってる風でした。
自称、放送大学の学生だと。

今のところメモった方がいいよ、
と言われてから、せわしなくペンを走らせて、
そのほかはテレビからの言葉を、聞き取った耳から脳を介さず口へ言葉に変えて……
なので頭には内容は入ってないみたいでした。

そんな彼女も落ち着いたのか行動範囲が広がって、病棟を徘徊。

名前チェックは止まらず、たくさん溢れる
アイデアノートを見せてくれました。
短歌、小説、エッセイ……

実に興味深かった。

素敵な話が一つとしてない。
いい話題も暗に深読んでそういう魂胆やな、と悪く捉えてしまう。

ありがちな子だなと思ってました。

基本、消灯と共に寝るわたし、ある晩、
彼女の浮遊妄想遊びを発見。
楽しそうでした。全くもって楽しそう。

次の日、聞いてみると。
妄想を抑えてるのだと。
妄想したいけれどしすぎると迷惑になるし、
帰れない。薬が変わる。
など不自由がふえる。

妄想を妄想として受け止めていること。
それを加減していること。

素晴らしい。

不自由な世界に生まれてきたんだね。
あなたのこと、
いつか家族が疲れずに見守れるよう
願ってます。

ここは何度も来るとこじゃない。
解決は根本。だと言うことです。


どんな人にも当てはまります



《フカンな少女》

出現は唐突でした。
第二リビングで何やら工作していて
持参した折り紙を折っていました。
色んな人から声をかけられ会釈。

しばらくそっと遠くから見てました。

ある日、妄想少女と絡めて三者談。
少しずつ警戒がとれたようでした。
自分のことを話し出すと、
気のおける人間と思われたのか
沢山教えてくれました。

仕方なくここにいて、時間があるので折る。
ザ・シンプル
入院2度目、保護室1週間。
なかなか優秀な経過です。

彼女は眠剤や安定剤のたぐいは飲まず、
病名なしと自称しました。
事故を希死念慮だと勘違いされてからの
この入院なんだと笑っていました。

けれど深いなと思ったのも事実で。
若いのにスピの世界に精通していて、
話が合いました。

二度とも死にかけたこと。
それをこれからもまだ生きろって事と
とらえてるって話しました。
彼女は若い頃のわたしに近いかな。

生きることにも死ぬことにも興味ない、
年を一つ取ったところで無感情でしかない。
わたしもそうだった。

フカンして自分をさげすんで。
おなじ。

彼女の話を聞くだけきいて、
この巡り合わせのために
フケイにタイホされたんだと
フカンなわたしがいいました。

わたしもそう、感情鈍麻。
精一杯生きたいのに生ききれてなくて。
子育てもどこか他人事でした。
しつけなきゃとしつけたら行きすぎてタイホ。環境からの性格・個性なんだという決めつけ。

自己犠牲の美しさに溺れて
自分自身への殺人を犯してました。
何に対しても自分さえ我慢すれば
丸く収まってきた事に甘んじた結果。
と気づきました。

きっとこの癖を続けると、
ムスメも感情鈍麻になるでしょう。
まだ間に合う。


少女たちの人生から教わりました。



最後の錠はわたしの心にわたしが閉めました。
解くのもわたし自身です。
ひとつひとつ丁寧に解いてゆきます。



フカンな少女もゆっくりでいい、
このロジックを解いて幸あれ、と願います。




    -最後に錠を閉めたのは-備忘録 了


最後に

この度の事件でわたしとムスメは貴重な1ヶ月を不自由に過ごしました。

警察のいい分、拘置所のいい分、精神科のいい分。それぞれまちがい無いんでしょう。不運だったでしか無い。

しかしこんな不運はあってはならないのです。

もしかすると同じ思いで泣き寝入りしてきた方がいたかもしれない。今後同じような家族を出さないよう行動します。


                  楽子


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?