ディルームにて
セミの声が風に滲み入る暑い夏、
わたし達は出会った。
わたしは隔離解放が済むと、
病棟の中にある
デイルームというスペースがあることを知る。
そこにはダイニングテーブルに椅子が四脚。
大きな窓にシンクがついており、
小さな談話室のような体で
患者に親しまれている。
そこから見える景色はやはり坂に家の
長崎らしい風情。
病院の施設らしい建物にも
西洋風の廊下がついているような独特の雰囲気
が出ていた。
長崎の建物はいちいち頑丈でいちいちお洒落な
イメージがわたしにはついている。
そんなデイルームで
パソコンに向かうことになったきっかけが、
アカリさん(仮)との出会い。
アカリさんは一際目立った存在で、
群れてる患者の話題をさらう。
社交的で一人一人の名前を覚えるのが得意だと
一人ずつ名前を聞いて回って、
わたしアカリです。と紹介を丁寧にしていた。
彼女もまた隔離室から出て来たばかりだった。
積極的ではないもののすれ違うたび
楽子ちゃんだったね、楽子ちゃんおはよ、
と朗らかに挨拶する様は心地いい。
そんな彼女はクリエイティブな一面を
持っている。
イラストを書いたり文章を書いたり。
また昔にはCDを出したらしい才能の
持ち主で。
「えー、なんて検索するん?
イマハタラクコ? どんな字?」
「今に秦基博の秦で、楽しい子」
「楽子? かわいい。楽勝の子やん」
「そう、楽勝の子」
「あ、あった、これ? note今秦楽子、
ちょっと読ませて」
アカリさんは携帯を食い気味に
わたしの文章に耽っている。
「ぞくぞくした。
クリエイティブなことしてる人に
出会えるなんて。
ちょっと
一旦部屋でゆっくり読ませてもらうわ」
何かわたしの文章が
彼女を刺激したようだった。
それから部屋に戻った後に自分も
イラストに取りかかったり
勉強中の英語に触れたりとアカリさんの
何かを呼び覚ましたらしい。
それがきちんと自己紹介した時のエピソード。
アカリさんはわたしが文章を書くのを
好きでいることにとても賛成した。
時間を見つけてはデイルームで
ふたり勉強したり文章を書いたり
時を流している。
彼女は自称ADHDだというけれど、
過集中したり多動だったりを自覚し、
回避する方法を知っている。
わたしとの心の距離も一定で心地よい。
今、
退院に向けて精神をコントロールしている様は
勇ましくかっこいい。
こんな病院の片隅でP Cを叩いているわたしを
肯定してくれた
彼女に何かエールを送りたくて。
あなたはあなたのままで
世界を照らしてください。
時に泣いてもいいんだよ。
頑張りすぎず、頑張って。
いつも応援してくれてありがとう。
デイルームから見える青空は綺麗な水色で
ところどころ羊のような綿雲が浮かぶ。
治療という名の休養が今日も始まる。
楽子
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