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2021年6月26日発売 スタンプ・コレクション [Memories]

こんにちは、版画作家・イラストレーターの羅久井ハナです。
普段はリノカットの版画やハンコを制作しています。

今回約2年半ぶりに、手彫りではないゴムスタンプの新商品を作りました。新しく生まれた作品たちをいつもより少し詳しくお伝えしたいと思い、noteを始めることにしました。
SNSは普段instagramtwitterをしていますので、もしよろしければそちらもご覧いただけたら嬉しいです。

在庫を持って販売していくハンコですので、品切れになればなるべく早く再生産します。
プレオーダー▶︎2021年6月26日(土)12時〜 [7月1日発送]
皆さんのお買い物が落ち着くまでは、プレオーダーを取りながら、出荷作業をまとめて行なっていきます。

等身大のアイディア

今回新しくゴムスタンプのイラストを考える際、まず最初に決めたことは、これまでのように箱にセットするのは一旦やめようということでした。理由は、サイズによる色々な制約から離れ、オリジナルのアイディアをなるべくそのまま活かしたかったから。

例えば「フルーツバスケット」「サーカス一座」のスタンプセットのように複数のハンコを箱にセットにする場合、取っ手のサイズをテトリスのようにぴったりにする必要があります。
箱の中に空白が出来てしまうと、国際輸送中は箱が凹んでしまうリスクが国内配送以上に高くなります。特に海外店舗に卸す時、何十個も束ねて梱包するので、損傷のリスクを少しでも減らしたいのです。

一方で「箱にぴったりセットすること」を優先すると、イラストを考える際にサイズの制約が出てきます。全体的に絵が小さくなっていったり、トリミングしたり角度を変えたり、色んな調整をするので、アイディアを思いのまま描くのは難しくなってきます。不揃いサイズの絵をどうにかまとめていくのは、勿論やり甲斐のあることだけども、時に無理が生じます。

今回制作するハンコでは、サイズの問題を気にせずにイラストそのものを精査していくことに集中したかったのです。

記憶の目でみる

では、どんなイラストにしようかと考えていた時
読んでいた本の中で、こんな言葉に出会いました。

「言葉で見る、あるいは作家として見るとはどういうことだろう?
それは記憶の目で見るということだ。
まず目の前にあるものを見て、それから、もうそこにはないものを見るということだ」 

アメリカの小説家、レアード・ハントの「英文創作教室」(研究社)に書かれた一節です。

目はいつも無意識に目の前のものを見ているけど、
目の奥にある自分の意識は、しばしば全く違うものを見ている...記憶の目で、目の前に今はない世界をリプレイしています。

言葉で意識した途端、アイディアノートの中から3つのラフスケッチが浮かび上がって、一歩前に出てくるのを感じました。
それが今回の3種類のハンコです。
言葉に導かれて自然と素案決まり、何度も描き直しながら線幅を調整し完成しました。セットでもソロでもなく、一つのコレクションとするのがもっともしっくりくるなと思い、コレクションの名前を「メモリーズ」とつけました。

さてそれでは、一つ一つのハンコをご紹介しますね。

フィルム

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ある時、どこかの博物館に行った時に、映写機の原型である「幻灯機(げんとうき)」の存在を知りました。
光源であるランプに、絵が描かれたガラス板をかざして壁にイメージを映し出すものです。
最初、その美しい言葉の響きに感銘を受けて描き始めたのですが
なかなかしっくりくる絵になりません。
ついに、自分の中にある映写機のイメージは
カラカラカラと音が聴こえてくる、金曜ロードショーのあのアニメーションだということに気付きました。
その事実を受け止めて、幻灯機を描くのは諦めてカタカタ回るリールを描き加えることにしました。

ただ、それでも途中で行き詰まりました。まだ何かしっくりこない…
記憶の目をフル稼働して、あることに気づきました。

「塵だ!」

体育館などで映像を見る時に、映像よりも照射口付近の光の中を漂う塵が気になっていたことを思い出しました。投影レンズ付近に点を五つ描き足したら、ようやく絵が完成しました。

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記憶のカーテン

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かつては目の前にあったものの残像が、自分の前髪のあたりに
カーテンのようにかかっていて、ユラユラと揺れているような感じがします。
私の意識は、鼻のあたりを椅子にして座っていて
いつもカーテンに気を取られています。
その残像や思考の中に、いつもさりげない糸口を探しているような気がします。気持ちを奈落に落とさずに、希望の中で絵を描くために。

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くまちゃん

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私が子どもの頃、特に好きだったのはサルのモチーフでした。
サルならなんでも可愛い!と、いろんな人形を持っていました。
でも、いくら私にとっての思い出の人形がサルだからといって
サルに抱きついている絵では、なんだか当てはまらない。

思い出すと懐かしい気持ちが溢れて、抱きついて泣きたくなる。
そんな思い出のメタファーとなるモチーフは、やっぱりクマなんじゃないでしょうか。比喩的表現ですが、このモチーフは特別な気がします。

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イラストのサイン、取っ手の印字

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今回から、イラストの中にサイン、取っ手にもコピーライトを印字をしています。

悲しいかな、海外で拙作をほとんどそのまま使用された商品が出回っているのですが、そうした商品と最も手っ取り早く区別をつけるために入れました。

考えてみれば、イラストにサインを入れることも取っ手に印字することも当たり前のことですよね。当たり前のことをちゃんとしていなかった。後悔しています。
これまでハンコのデザインに自分のサインを入れてこなかったのは、手彫りハンコの受注会の方で文字入れのカスタマイズをお受けしているので、自分のサインは入れないことが癖になってしまっていたんです。
また、当時取っ手に印字ができるハンコ屋さんを自力で見つけられなかったのも一因でした。見つけた!と思っても、予算オーバーだったり、ハンコのイラストが細かすぎると言われて断念したり。今思えば、もっと粘り強く模索すべきだったと猛省しています。

ただ、身も蓋もない話になってしまいますが、それらをちゃんとしたからといって、真似されるときは真似されます。商売(・消費)に対する他人の考えを変えることはできません。万全な対策、根本的な解決、盗作を完璧に抑制する道は現状ありません。

だからこそ、育てた果実が万が一奪われたとしても、根っこや土まで奪うことはできないと信じて。イラストが生まれる過程を大事に、闇雲に商品を作り広めることより、まずは自分自身の思考を深めることを大事にしたいと思っています。
こういう長い文章を、オンラインストアのアイテムページに書いても読みづらいかなと思ったので、noteに書くことにしました。

まだまだ模索中で不安は拭えませんが、ようやく踏み出せた一歩です。
私が文章を書くことについて、背中を押してくれた友人たち、本当にありがとう。

[Memories] たくさんの人に喜んでもらえますように。






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