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「コンドルは飛んでいく」原案:めがねざる

*仕事帰りの会社員の前にラジカセを持った老人が登場。
 その老人は「俺についてこい」と無理やり会社員を連れて街を歩き出す。

*ラジカセからはサイモン&ガーファンクルの
 「コンドルは飛んでゆく」が大音量で流れている。

 *道ゆく人は皆、会社員と老人を振り返る。
  果たしてこの老人の正体、そして二人はどこに向かう……?


 最終面接はあっけなく終わり、他の就活生らとともに部屋を出る。もし受かれば就活とかいう阿呆らしい椅子取りゲームも終了であるが、果たして。
 
 エントランスを出たところに、何ともみすぼらしい格好の老人がいた。我々に気づくと立ち上がり、肩の上のラジカセのスイッチを入れる。大音量で、サイモン&ガーファンクルの「コンドルは飛んで行く」が流れる。道ゆく人が眉をひそめるのも御構い無しに、老人は揚々と、リズムに乗って歩き出す。それに連れられるように、俺の足も動く。だって、だって、どう考えてもこれが「最終試験」じゃないか。
 
 ドラマなどでたまにある、例のやつだ。老人を助けたら、実はその老人がその会社の会長、のパターンである。最終面接が簡単な自己紹介で終わったのも頷ける。最終が集団面接であることもおかしい。それに、何より目の前を歩く老人の顔と、先ほどの部屋に張り出されていた会長の顔が同じだ。バレバレだ。
 
 ところが、暫く歩いていて、困ってしまった。後ろを振り返る。他の就活生も同じ気持ちらしい。そう、「何をすれば良いのか」がわからないのだ。例えばこの老人が、何か困ってくれれば話は早い。転べば助ければ良いし、道に迷えば案内すれば良い。ところが老人とくれば、ただ「コンドルは飛んで行く」を流しながら歩くのみ。なんだこの時間。思わず、転べ、転べ、せめて迷え、など念じてしまった。いけない。自分の人でなしぶりを恥じる。
 
 結局、どうすることもできずリクルートスーツの集団が老人を先頭に「コンドルは飛んで行く」を聴きながら練り歩くという異様な光景が生まれた。当事者でなかったら笑っていたところだ。残念、俺は今当事者である。しかしだからこそ、気づけたこともある。
 
 この曲、すごく良い。
 確か、ベトナム戦争が激化したころにリリースされたもので、平和の祈りが込められた曲のはずだ。平和の祈り、なるほど。他人を蹴落とすことばかり考える就活に疲弊した心が少しだけ浄化する。もしかしたら会長は就活生にそれを伝えたかっただけなのかもしれない。
 
 など思っていると、突然、音楽が止む。老人がゆっくり振り返る。
 
 「音楽が止まったということは?」
 一瞬、言われた意味がわからず固まる。
 しまった、そういうことか。他の奴らも気づいたと見えて、元のビルに向かって同時に駆け出す。マジのイス取りゲームだというのか。だから集団面接だったのか。若干、出遅れた。ちくしょう、前のやつ、転べ、転べ、せめて迷え。

いつもいつも本当にありがとうございます。