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廃部(未公開版) 原案:あんけいよー

【原案】
とある高校の部室に、数名の男女が集合していた。その部室は現在どの部活のものでもない。今まであらゆる部活がその部屋を使っていたが、必ず廃部になっていた。これを不思議に思っていた生徒がいままで廃部になった部の部員を集めて話を聞く……

 女卓(じょたく)が廃部になったと聞いて「じょたくって何」と聞き返した。
 「女卓こと女子卓球部。なんで真由(まゆ)私の部活知らんのよ」
 同じクラスの結衣(ゆい)が唇を尖らせる。窓の下、昼休みにも関わらず生徒らが不要になった学校備品の撤収をしていた。

 「で、結局、文芸部、オカ研、盤遊部、そしてうちら女卓、やっぱあそこに左遷されたら終わりじゃん、最悪」
 
 あそこ、とは旧校舎に盲腸みたくひっついている一室のこと。ここ数ヶ月、この部室をあてがわれた部活が立て続けに廃部になっているのだ。生徒の間ではこれを左遷と呼ぶ。
 
 「女卓は人数もギリ足りてたし、いくら実績がないからって廃部はおかしくない?」
 「ごめん、聞き忘れた。盤遊部って何だっけ?」 
 「盤上遊戯部?」
 「ああ、ボードゲームとかの」
 さて結衣は私の手を掴み、ぐんぐん進んでいく。錆びたパイプ椅子やら資材やらが雑然と置かれた旧校舎裏を抜けると、例の部室前についた。
 「なんでここ?」
 「廃部になった経緯が気になるじゃん?だから、これまで廃部になった部活の人ら集めてヒアリングするの」

 だから、なんで私も一緒なの、そう訊きたかったけれど、結衣はもうドアを開けている。中に入る。がらんとした部室には確かに数名の男女がいた。なんであんたら従順なんだよ。視線が私に向けられる。空気に棘が混じる、刺さる。
 
 「ええと、私たちのときはもうドアを開けたら、何もなくなってて」 
 そう語ったのは元文芸部の宮本さん。彼女は素直だ。

 「同じく。コックリさんの途中で、人が入ってきて十円玉以外全て没収されて、気がつけば俺も廃部」
 これはオカ研こと、オカルト研究部の飯島くん。で、続いて盤遊部、つまりは盤上遊戯部の井岡も同じようなことを語り、やがて、沈黙。資材を片付ける作業音だけが響く。

 「じゃあみなさんは、このまま廃部で良いんですか?抵抗しなくて良いんですか?」

 感情の矛先に迷いながらも、結衣は彼らに詰め寄る。やめなよ。私の声は届かない。彼らは悪くない。悪いのは、この学校のシステムだ。

 「まあ活動実績もなかったし、いいかなって」
 飯島くんも随分と物分かりの良いことも言う。
 「こういう作業、別に嫌いじゃないし」宮本さんも続き「要は内申点稼いだ方が得だしな」と井岡が本音をぶちまける。

 窓の外、古びたピアノが運ばれていくのが見えた。
 「そんなで良いの!ねえ!大学の推薦枠が欲しいからって、悔しくないの?」
 これ以上、激昂する結衣を放っておくのも、危険かもしれない。悲しい。悲しいけれど、
 
 「もう、回収してもらえる?」
 彼らに指示を出す。途端、飯島くんが結衣の両肩を支え、井岡くんが足を持つ。
 
 「え、え、何すんの、ちょっと!真由!見てないで助けて!」

 ごめん、心の中で結衣に謝る。でも、安心して。私らの部室で、少し反省してもらって、そのまま入部してもらうだけだから。口下手で、部活動に一切興味を持てなかった私が、内申点目当てで作ったこの部活。部活数を減らせばそのぶんこっちに予算と部員が増える。多少強引でも説得すれば案外簡単に吸収できた。反抗的な生徒は今みたいに“回収”。部員は内申点を稼げるし、学校は経費削減にもなる。すでに、部員数はゆうに百を超えた。正直、私じゃもう止められない。
 
 私が「廃部」の部長だってことは結衣にバレたくなかったけれど、しょうがない。だって、私は、推薦枠が欲しい。だから、結衣もおいでよ、廃部こと、廃品回収部。


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