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「デスエレベーター」(原案:抑揚YZ)

【原案】
*転職先の先輩から「うちのエレベーター少し変わってるから気をつけて」
 と言われ、実際に乗ってみると……確かにおかしい。
*「閉まる」「開ける」のボタンの間に「闘う」というボタンがある。
 押したら何が始まるというのか……?

 深夜、エレベーターに乗り込み「閉まる」のボタンを押す。突然、室内が真っ暗になりフロア表示用の画面にピエロが映る。
 
 「ようこそ。デスエレベーターへ。「闘う」ボタンが押されたということは、このゲームへの参加表明と受け取らせていただく」
 
 心臓が止まるかと思った。恐る恐る自分が今押したボタンを確認する。確かにそれは「閉まる」ではなく「闘う」だった。
 ピエロは続ける。
 
 「ここでは勝者だけが外へと出ることができる。つまり生きて帰りたければ相手を倒すしかない。さあ、ゲームスタートだ」
 
 ピエロの笑い声が響く。やがてエレベーター内は静まり返り、機械の動作音だけが鼓膜を揺らす。肺を沈黙が満たす。耐えきれなくなり、私は口を開く。
 
 「あの、私しか、いないんですが?」
 
 ピエロの笑顔が一瞬歪む。目を細める。
 「ですから、このエレベーター、私しかいないんですけど…」
 
 ピエロは今の状況をようやく理解したらしい。
 
 「えっと、出してもらえます?」
 「ならぬ。このデスエレベーターは勝者しか出ることができないのだ」
 「だから他に参加者がいないじゃないですか」
 「だったら一旦、扉を開いて、参加者を募ってから始めることにする」
 「扉開いたら私出ますよ?え、なんでそんな簡単なことも想定しないで、こういうの始めちゃったんですか?」
 「黙れ。「闘う」を押したのはお前だ。お前の意思でこのゲームは始まったのだ」
 「じゃあ、どうします?あなたと戦えばいいんですか?」
 「私と?」
 「他にいないし。というか、もう勝ってますよね?ディベートで。一人しかいない。ゲームは不成立。はい、出して出して!」
 
 ピエロはしばらく何か言いたげに口をもごもごさせていたが「別にこっちが負けたわけではない」と捨てセリフを残し、私は解放された。
 
 
 デスエレベーターの噂は本当だった。
 今しがた出たばかりの廃ビルを振り返る。
 そう、ここにはもう誰もこない。たまにネットで噂を見つけた私みたいな人間が冷やかしに来る程度。これまでも今のように言い負かされてきたのだろう。
 
 エレベーターに閉じ込められているのは、間違いなくあのピエロだ。

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