Simon & Garfunkel の「Bridge Over Troubled Water」#43
rakuda が洋楽に目覚めたのは中学の時、母がくれた「プレスリー」と「ビートルズ」のレコードがきっかけだった。
まるで別世界から聞こえてくるような、シャウトするヴォーカル、力強くうねるようなビート。
その強烈なインパクトに圧倒された rakuda はそれから洋楽にどっぷりとはまっていく。
しかも母はなんと rakuda にパイオニアのステレオを買ってくれた。
これと同じかはわからないけど、こんな感じ。立派な家具みたいだったし、大きかった。
15万くらいしたと思う。
貧乏だったのによくこんな高価なものを買ってくれたな…
母にしてみれば、膝の病気で部活もやめ、帰ってからなにをするわけでもない rakuda になにか夢中になれるものをもって欲しかったのだろう。
母は、映画音楽全集とか、ロシア民謡などのレコードを買っていた。
母の全集を見るうちに映画にも興味を持ちはじめ、
スクリーンなどを買って、キスシーンなどにドキドキしたりする、音楽と映画に夢中な中坊になった。
そんな rakuda にKという同じ洋楽が好きな、話のあう友達ができた。
Kの家は資産家だった。
地元ではK一族といわれ、ガソリンスタンドを経営していた。
…が、Kはけっして裕福な家庭の坊ちゃんという感じではなかった。
その頬にかすかに残る傷跡のせいか、むしろ一匹狼のような少しニヒルで独特な雰囲気をもっていた。
Kはよく家にも遊びに来たし、rakudaもKの家に行った。
K は自分だけの部屋をもっていて、ステレオやベットがあり、とてもうらやましかったのを覚えている。
ある日、Kの家でいつものようにレコードを聞いていると、
「俺は、サイモン&ガーファンクルが好きだ」と K が言った。
あの頃は、ラジオの深夜放送を聞くのが流行っていた。
僕達はテスト勉強と称しては学校から帰ると夕食を食べひと眠りして深夜放送にそなえた。
ラジオからはいろいろな曲が流れていた。
その中でサイモン&ガーファンクルはちょっと異色のデュオだった。
ある意味で悪とか不良にあこがれる年頃だった僕は、サイモン&ガーファンクルという暴力の匂いもSEXの匂いもない軟弱なこの二人が好きになれなかった。
Kは「明日に架ける橋」の歌詞に感動して真似して作ったという詩を見せてくれた。
正確にはいやがるKの手から奪い取って読んだ。そして馬鹿にした。
僕は最低だった。
高校が別々になってからは K とは疎遠になった。
僕には高校で新しい友達が出来たし、Kもきっと同じだろう。
卒業後も時々、噂は耳にはいってきた。
「働いていない」とか、
「ビリヤードばかりしている」とか…
「ふ~ん、そうなのかぁ…」
あまり気にとめもしなかった。
それから何年かしてKは、あるビリヤードの大会で優勝した。
母親は「ビリヤードがそんなに好きなら」とビリヤードで食べて行く事を薦めたそうだ。
勿論、経済的援助も含めて。しかしKはその道も拒んだ。
Kに再会した。中学を卒業してから25年以上がたっていた。
Kの母親は僕の母親がやっている化粧品販売のお得意さんでよく買いに来てくれたのだが、その日初めてKがハンドルを握っていた。
平日の昼間。僕が家の仕事をしていなかったら会えなかった。
配達に行っていても会えなかった。
とにかく僕達は25年ぶりに出会った。
「やぁ」と片手をあげてゆっくりと車から出て来たKは少しふっくらしていて、それまでの噂で僕が勝手にイメージしていたKとは全然違っていた。
何故か僕は少し安堵した。
そのKが亡くなった。
死因はよくわからない。
突然血を吐いて病院へ運ばれたが帰らぬ人となってしまったとか、自殺だったという噂も聞いた。
Kの死は親戚にも知らされず、身内のあいだで葬式はひっそりと行われたそうだ。
Kが逝ってしまった今、僕はとても後悔している。
何故あの時をきっかけにKとまた旧交を深めなかったのだろう。
ひょっとしたらすごくわかりあえたかもしれないし、そううまくはいかなかったかもしれない。
でもせめて一度でいいから一杯やりたかったな。
K、詩を馬鹿にしてごめん。
◇おまけ
2度目だけど、うちのバンドCrossroads の「明日に架ける橋」
原曲とは違う感じで演ってます
よかったらお時間がある時にでも聴いてください