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2年ぶりにガイド仕事が戻る!

通訳ガイドのぶんちょうです。
2020年の2月を最後に、通訳案内士の仕事はプッツリと途絶えていました。
満開の桜を自宅付近で楽しむと言うガイドにとってはあり得ないような事態を3度も経験し、どうせ外国人観光客がワンサカ来るのは秋になったころだろうと高をくくり、のんびりとすごしていました。

ふとスマホを見るとエイジェントから仕事のオファー。しかも朝の9時と11時に全く同内容で2回。つまりは早く返事せい!の意味です。

内容を開けると5月8日の仕事依頼。当日まで3日しかない。しかもゴールデンウィークの最終日で、ツアーの前日には来客予定も入っていて準備もほとんどすることができません。

さてどうしようか。引き受けるか。ここは断って、きちんと準備をしてから次のオファーを待つことにするべきか。

コロナ中に来た話は数ヶ月先のものばかりで、本人の来日したい気持ちはあっても状況が許さず、一ヶ月も前になるとキャンセルになるというパターンがお決まりになりつつありました。

「どうせまた直前にキャンセルになるから」とあまり気にも留めないツアーの予定がスケジュール帳にぽつーん、ぽつーんと。実際それらは、この2年半近く実現したためしがなく、現れては消えるツアーばかりでした。

ところが今回は違う!3日後というのは「本物」です。海を渡ってやってくる訪日観光客向けの正真正銘のツアーがとうとう戻ってきた!6月から政府は水際対策を大幅に緩和する方針を検討しているようだけれど、まだ5月じゃないですか岸田さ〜ん。

この2年間で目覚まし時計もかけず、ネットフリックスを見たり、家の片付けをしてみたりと、ほぼ引退生活をすごしていた私です。そんななかで、このメール。冬に暖かな陽だまりでいい気持ちで昼寝していたネコがシッポでも踏まれてぎゃっと飛び起きたように、完全に不意打ちをくらった形で仕事が再開したのです。

この2年間、ガイド関係の講師をしたり、研修を受けたり、オンラインツアーもちょっとだけしたものの、来日した観光客と一緒に歩いて案内するガイド仕事は皆無でした。

本当にできるのか? 2年半近いブランクがあって、しかも準備する間もないのに。コロナが明けた初回の仕事は完璧なツアーをしよう。自分のなかで最高のツアーをしようなんて漠然と思っていたのですが、そんなロマンチックなこと言ってられない!

失敗して取り返しがつかないようなことになるかもしれない。これは今後のことを考えると、ひょっとして断ったほうが賢明なのではないかと言う気持ちがよぎります。

いや、一度乗り方を覚えた自転車は乗れると言うでしょ。せっぱつまらないと何事もやらない性格なんだから、時間的余裕を持ってもらったツアーでも今回と同じように、直前にあたふたと準備するのが関の山でしょ。と言う自分のなかの声も聞こえてきます。

断って後悔した時のみじめな自分が脳裏に浮かんだのと、一刻も早く返事をしなければという思いから3分後、えいやーと受諾の返信をしました。「ツアー可能ですか」「可能です」長年の付き合いのあるエイジェントだからこその素っ気ないメールのやり取り。今までなら、「明日可能ですか」「今からすぐいいですか」でも、体さえ空いていれば、何の迷いもなくOKの返事をしていたのに今回のYESは重たいです。自らGoを決めてしまったからには逃げも隠れもできない!よっしゃ、早速準備だ!

今回は一日だけ。ゲストは新宿、原宿辺りの東京の西を歩いて回ることを希望していました。

与えられた情報は父と19歳の息子の2人旅。これだけです。情報は少ないほうが私はむしろ好きで、国籍や趣味や職業などは当日になって知るほうが面白いのです。

翌日、2年半ぶりの明治神宮を下見で訪れました。入り口の鳥居が工事のために覆われて、いつもの参道とは違う迂回路を通って本殿に向かうようになっていました。やっぱり下見に来ておいてよかった。

5月の新緑が太陽の光を浴びて本当にきれいです。迂回路は今までよりも森の中を歩いている感じがしていい感じです。この都心の緑を見せてあげたい。当日もこんな天気だといいなと思いながら早足で神社内を一周します。

下見というのは、例えば、神社定番の絵馬やおみくじなどのほかに何か独自のものがあるか、それをどういう切り口で説明するかの確認とコースの回り方を大雑把に決定していくためにするものです。

今まで説明していた内容が、ざっとは思い出せるのですが細かい部分をかなり忘れていました。現場に身を置き、実際に目で見ることで記憶をたどります。特に数字を覚えていなくて、あれこれと調べ直しです。当時から言う内容を細かく文字に起こして残しておけばよかったと、ちょっと後悔しました。

今まであったビルが取り壊し中で、その中のお気に入りの飲食店もなくなってショックを受けたり、新しい、使えそうなレストランができていてうれしくなったり、私の浦島太郎化もかなり進んでいました。

下見で困ったことが一つ。私はあえて「きれいではない場所」もゲストを連れて行きます。日本のちょっとしたダークな所を見てもらうことで、日本人が戦後をどう築き上げたかを言葉だけでなく、感じてもらいたいからです。これはゲストがどういう人かを見極めてやらなければならないことですが私は必要なことだと考えています。

ちょっとガラのよろしくない繁華街の裏通り。ゴールデンウィーク中でお掃除が入らなかったせいか、ものすごい量のゴミが散乱していました。前の晩に飲んだものか、缶やらタバコの吸い殻やらが想像を絶する光景を作っていました。

これは、いくらなんでも許容量を超えてるわ。ほとんどのゲストは今まで日本の道路、駅、あらゆる所にゴミがなくクリーンだと言ってくれていました。私自身も、それが、その精神が日本人のいちばん誇りに思えるところだと思っています。

とりつくろっただけの日本を見せるのは私らしくないけれど、わざわざ究極に散らかした部屋をお客さんにみせる必要もないでしょう。その通りを避けるルートを考えことにしました。この先、日本と日本人がどう変わっていくのか少し心配になりながら下見を終えました。

本当ははもっとゆっくりと調べたり、口慣らしをしておきたいのですが、ほぼぶっつけ本番で当日を迎えました。

まずオークラホテルにお迎えに行きます。「虎ノ門ヒルズ駅」という行ったことのない新駅ができているので迷わないように少し早めに家を出ます。とにかく筋金入りの方向音痴なので、知らないところはなるべくつぶしておきたいのです。

虎ノ門駅から虎ノ門ヒルズ駅までつながる通路 まっすぐ!

ロビーで約束の時間になると、2人の西洋人が歩いてきました。昔はホテルのロビーは外人さんだらけで、自分のお客様を探すのに苦労しましたが、今回は100%の自信で「あ、あの方たちだ」とわかりました。

オークラの新ロビーは大好きな場所

小さい私が見上げるくらい背の高い2人を見て「ああ、この感じ久しぶり」と思いながら挨拶を終えると、私は早速一番興味のあったこと「なんで日本にこの時期に来ることができたのか」を聞いてみました。すると自分はドイツの医師で目的は観光だが、日本の仕事上の友人から招かれた形での来日ということでした。やはり、ちょっとした「コネ」があるから来れたようです。

確かに親族が日本に在住している人などは、最近かなり日本に入っているようで、都内では外国人をかなり見かけるようになりましたよね。

話していると、お父さんも息子さんも穏やかで、とてもいい方です。たいていのお客様はとてもいい方なのですが、たま~にいらっしゃるのですよね。「会話なし。笑顔なし。反応なし。」タイプの方が。そんな時は貧乏くじ引いたと笑うしかないのですが、再開後、初仕事ではさすがに避けたいです。はい。

夫婦の場合は同世代なので趣味趣向が似ている場合が多いのですが、親子は世代が違うので、ツアーがしにくいこともあります。今回も息子さんはアニメなどが好きで、前日には自分で秋葉原に行ってきたらしいですが、私のツアーでは、ちゃんと話をきいてくれて、受け答えもちゃんとしてくれました。これ、ティーンでは感動レベルのお客さんです。中2病真っ最中?のティーンがかなりの確率ですから!

お客様は最高でしたが、私のほうは、やはり以前のように口も頭も回ってないなとしゃべりながら感じていました。説明も案内もどこかぎくしゃくし、スムースではない。2年半のブランクがのしかかってきます。

それでも、やっていくうちに感覚が戻ってきました。電車に乗る時の自分の立ち位置。行動の促し方。こう言うものは幸いなことに、ブランクがあっても体が覚えてくれていました。

資格を取って初めて仕事を終えた時の気持ちを今でも覚えています。あの頃の客観的な出来具合が今と比べてどうなのかはわかりません。でも、とにかく夢中でしたから、終わった瞬間に最後までこなせたという達成感でいっぱいになったことを記憶しています。

今回、下見なく突撃した場所もありましたが、それも大きなヘマなく、ゲストとの交流を私は心から楽しみました。ゲストもツアーを喜んでくれました。一度やってみたかった握手代わりの腕と腕をちょんと合わせる挨拶をしてツアーは終了です。今回は、ツアーをする楽しさはよみがえったものの、少し厳しく採点すると、過去の自分と比べて半分くらいのパフォーマンスだった気がして、昔のように手放しで満足することはできませんでした。

むしろ、あれもできたはず、これもできたはずという思いが強く残っています。その一方で、磨き直せばなんとか行けそうだということもわかりました。この2年半があまりにも長く、引退の二文字が頭をかすめたこともありました。でも、もう一度あの新人のころのピュアな達成感、心から仕事を楽しめる気持ち、ゲストとの一体感を味わえるように、この大好きな日本を、日本人の心を世界の人に知ってもらえるように、もうちょっとがんばることにします。










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