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築地市場の思い出

通訳ガイドのぶんちょうです。ガイドの仕事で何度も足を運んでいた東京の築地市場。場内市場は近くの豊洲に数年前に移転し、その後オリンピックに向けて解体作業が進められました。

築地市場は場外と場内に分かれていて、お寿司屋さんなどのレストランや小売店の建ち並ぶ場外は今でも健在です。お刺身やスイーツまで、色々な食べ歩きが楽しい場所です。

一方、場内は言わばプロたちの場所。朝のセリで手に入れた魚が並んでいます。場内の建物は老朽化していましたが、築地で働く人たちの熱気はいつもすごく、魚の目利きとして職人気質な人たちの戦場のような場所に思えました。一歩、場内に足を踏み入れると素人の私は、その緊張感のある空気に気圧されそうになったものです。

場内の通路はとても狭く、反対側から人が来るとすれ違うのが大変な位です。少し広めな通路は、ターレーと言う一人乗り用の荷物運搬車が所狭しと行き交います。それもかなりのスピードで!なので、珍しい魚に気を取られている観光客がターレーと接触しないように絶対に目が離せません。ターレーはどの方向から来るかわからないのです。動力が電気なので音もなくやってきます。

とにかく、働く人のお仕事の邪魔をしないようにと細心の注意を払いつつも外国人を連れて案内しなければならず、うっかりすると「そこ!邪魔だ」と怒声が飛んできます。私たち見学者は、彼らのいわば神聖な職場にズカズカとと足を踏み入れているのですから怒鳴られるのも当然です。

時には、珍しい魚を外国人観光客に示して、ガイドの私に通訳するように目配せしてくれるような親切を受けたりもしました。そんな時は外国人も大喜びです。それは、築地のプロと私のお客様がコミュニケーションを楽しむ様子を見ることができて、私にとっても最高にうれしい瞬間なのです。

場内から外に出た瞬間、普通の世界に戻ったような気がします。ガイドをしていて一番緊張を感じる場所、一番ワクワクする場所が今はなくなってしまった築地の場内市場でした。


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