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今敏を追って #1

僕が今敏という名前を知ったのは12年前の夏。
氏が亡くなった後、膵臓癌を患い闘病中に綴っていたブログを見かけた時である。

その頃の僕は監督や原作者の名前はおろか出演している声優の名前も知らずにただその作品の世界の中に浸かることだけが作品の本質に向き合えるのだと斜に構えていた時期でもあった。

ちょうどその頃、世の中は「けいおん!」ブーム真っ盛りであり、主人公の平沢唯はミュージシャンの平沢進が由来になっていると話題が上がった。

SNS黎明期以前からネットを舞台に活躍していた平沢進はその「けいおん!平沢唯 名前の由来」に関して某つぶやき系SNSで私見を述べており、ファンを突き放しつつも人を惹きつける自らの世界観を創り上げることのできる平沢進と言う人物になぜか感銘を受けている自分がいた。

今思えば自分自身を表現する術を持つ人に対して強い憧れを感じていたのだろう。

そんな平沢進の楽曲を漁っているといくつか聞いたことのある音楽があることに気がつく。
白虎野の娘」「ロタティオン[LOTUS-2]
耳馴染みのある音楽、それは全て一人の監督が描いた世界の為に平沢進が奏でた音楽達である。その作品は何度も見ていたしそれらの作品に関わっているアーティストを知らない自分を恥じた。

そんな己の世界を創り上げてきた人物のその世界観を崩すことなく自分の作品にその世界観を溶け込ませ、そしてその人物を受け入れ調和させる作品を作っていく。その人物こそ、今敏監督であった。

他を寄せ付けぬアーテイストが心を許し、そして自分の作品の中でそのアーテイストの世界を表現させてしまう懐の深さを持った監督の世界にどっぷりと浸るまで、そう時間は掛からなかった。

監督は平沢進の音楽に心酔していたという。
監督の映画に平沢進の音楽が違和感なく溶け込んでいくのは、非現実を表現する手法として音楽を用いているアーテイストとのハーモニーにほかならない。

こうして僕は作品のその奥にいる「人々」の深みにはまっていくのである。

#2に続く

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