コンサータ最強!コンサータ最強!
メチルフェニデートってなに
精神刺激薬。わかりやすくいうと覚醒剤の仲間。機序も作用も違うが、よくカフェイン、メチルフェニデート、メタンフェタミン(覚醒剤として一番よく知られるアレ。以降はこれを便宜上覚醒剤と呼ぶ)の3つが同一の数直線上で語られることも多く、メチルフェニデートは他二者の中間くらいの"強さ"がある。実はこの乱暴な数直線も的を射ることがあって、仲間内で覚醒剤を摂取したら、みんなの目がバキバキになっていく中で、唯一強いADHDを持っていた人だけが急に大人しくなったという逸話がある。これは実に、メチルフェニデートを摂取したときの反応に酷似している。やはり物は使いようである。機序を無視すれば、その作用に共通点があり、それを数直線上に表すこともできなくはなさそうだ。
メチルフェニデートは、一度受容体にはまったドーパミンとノルアドレナリンが"用済み"として捨てられるのを妨害する(再取り込み阻害)。するとこれらの神経伝達物質の効果が大きくなる。
覚醒作用の使い勝手がいいので、現在はリタリンとしてナルコレプシー(過眠症)に、コンサータとしてADHDに対して処方される。
効きにはめちゃくちゃ個人差がある。
経緯
多少の自閉傾向と結構な注意欠陥を持っている。どれくらいひどいかというと、大学の講義を5割聞いていられればいいほうで、2割程度しか聞けていないこともざらにあった。今年度の前期は公認心理師の受験資格を取るための単位をとるべく、できもしないのに週5日すべて1限からコマを入れ、ほとんど落とした。当期のGPAは1前後だったと思う。
お先真っ暗やでェ…… と思い、発達障害についての困りごとと慢性化した軽鬱のケアのために通っていた心療内科で、コンサータをやってみたいと申し出た。発達障害のための他2種の薬を試してたいした改善が見られなかったので、これでだめなら"健常な"進路を完全に諦めるしかないと確信していた。そこの先生はコンサータを処方する免許のようなもの(民間による自主規制)を持っていないとのことだったので、別の医院を紹介していただいた。
初めに行ったところでは、コンサータを新しく処方することを止めているとのことで、一ヶ月も待ったこともあってぐにゃあした。絶望すると本当に「ぐにゃあ」のコマのように視界が歪む。福本伸行は絶望を知っている。ちなみに帰宅して過呼吸を起こした。
二件目ではとんとん拍子に受診まで進んだ。予約を申し出たら、来週のこの日に来てくださいとのことで、元の心療内科医に紹介状を慌てて用意していただいた。
受診場面では自分が何に困っていたか全て忘れる。初診なら社交不安もありなおさらなので、事前に全て書いた。そのA4用紙2枚を渡して新しい精神科医の質問に答えていくと、コンサータの適応になるのは間違いないそうで、その日に処方していただけた。朝食後に1錠、18mg。
良くなったこと
ドーパミン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用と適応を踏まえて、
透明だ 気分がいい
頭の声を自力で消すことができるようになった。無になれる。過労で死んでいる時以外は常に頭の中が音楽と内言(言葉による思考)で埋め尽くされていたのだが、なんと脳内のラジカセに一時停止ボタンとトラックの切り替えボタンが生えてきた。入眠時、脳の働きの主導権が大脳新皮質から辺縁系にシフトすることでうるさい脳の論理性が失われていき止まらないイメージや思考が崩壊していく様子を見せられなくていい。その過程がはっきりとわかるほど、かつて脳内は騒然としていた。今はすぐに眠れる。寂静の極み、有余涅槃の境地。万物のあるがままを受け入れる「禅」にやっと邁進できるようになった。生を享けて21年、今までずっと、脳という人混みに住んでいたらしい。
(頭が)透明だ 気分がいい
注意力が格段に上がった
脳が透明になったおかげで、聴いていようと思えば講義をぶっ通しで聴けるようになった。5割聴ければいいほうだったので、これはとんでもない進歩だ。あとは途中でワードホリックの発作が起きて(こうして)文章を書きたくなるのを抑えられれば完璧だ。自分は注意欠陥はあっても衝動性は低い方なので、これは訓練次第で改善できる。
発達障害に関連して、自分は発達の傾向を把握するために知能検査を受けたことがある。4項目のレンジは20、一番高いのが短期記憶で、131だった。100を平均として標準偏差が15なので、平均からだいたい2標準偏差分離れている。程度が感覚的にわかる具体例として、12, 3桁の英数字を一つずつ聞いて記憶して、脳内で並べ替えるといったことができる。
しかしこれは、あくまで一切刺激のない静かな診察室での話。日常生活では、他人の生活音が聞こえるだけで6桁程度の数字さえ覚えていられなくなることもあった。ちなみに平均的な人だと7から9桁まで覚えていられる。
この短期記憶の困難が大きく改善されたと感じるエピソードを昨日経験した。突然口頭で一気に伝えれられた英字2字+数字8桁のとあるサービスのIDを、その一回の記憶だけを頼りに復唱し、スマホに入力できた。日常生活ではこんなことはありえなかった。今知能検査を受けたらFSIQで130を超える自信がある(知能検査はスコアアタックゲームではないし、特に短期記憶の検査は長引くと死ぬほど疲れるのでやらない)。
物忘れ・忘れ物が減った
ノイズが消えたので、何かをしようと思って立ち上がり、それによってもたらされた新しい刺激のせいで目的を忘れる…… といった悲劇がほとんどなくなった。
タスクに対する動機づけが容易になった
タスクが生まれたとき、ただやるだけだと思って着手できる割合が増えた。
動機のある事柄に着手した時点で、実は脳に報酬が支払われている。今まではドーパミンが足りないせいで多くの物事に対する動機がほぼなく、強い動機づけを持っている事柄を繰り返すことに一日を費やすしかなかった。自分はそれがゲームと作文だった。
今は適正なドーパミンによってタスク全てに多少ずつの動機が与えられたので、タスクを先延ばしすることが減った。
タスクを完遂するための3つのハードルがかなり低くなった。タスクをやり始めるまでタスク自体を覚えておく、タスクにまず手をつける、タスクを終えるまで興味を他に逸らさない。ADHDにとって極めて高いこのハードルというか障害の文脈におけるバリアが薄くなった。完全に取り除かれたわけではないが、今の状態でタスクに手をつけられなければ、怠惰と呼べると思う(怠惰かどうかは本人が決めるべきで、どんな場合でも他人が決めてはいけない)。
目覚めパッチリ
最大音量のアラームに気づかないことさえあり、気づいても起きるまでに1時間かかることも珍しくなかった。これは通学に最低1時間かかる今の生活には致命的で、7:30くらいの電車に乗らなければいけないのに、朝食に時間がかかることを考えて6:30にアラームを設定したとしたら、とても間に合わない。
まずアラームに気づかないということがなくなった。睡眠時間が5時間半を切ると気づかないこともあるが、入眠が改善されたおかげで1限から講義がある日でも6時間前後を確保できるようになったのでそうそうない。またアラームを消してからだいたい10分以内に起きて朝一番のうがいができるようになった。相変わらず食事は遅い。
昼寝が要らない
いよいよ覚醒剤らしく感じられてくるようなメリットとして、昼寝が要らなくなったことがある。特に昼食と夕食の後はとても起きていられないほど強烈な眠気に襲われていた。いかほども食べていないのに必ずドカ食い気絶を強いられていた。特に休日は昼食後に2時間寝て、夕食後に2時間寝てから風呂に入り、パイプを吸ったあと歯を磨いて寝直す。そんな生活をしていたのだが、それが一切なくなった。
活動に必要な睡眠時間が減った
(ここは後述の「疲労を自覚しにくくなった?」と一緒に考えなければならない)
以前は、元気に活動するのに必要な最低の睡眠時間が8時間だった。8時間を切ると耳鳴りが止まらなくなっていて、休日など午前の予定がない日に睡眠負債をせっせと返す必要があった。返すといっても簡単に返せるわけではなく、まず睡眠負債の返済という行為そのものが生活リズムを乱すので、返済中も体がだるい。今年の前期は週5日とも一限からだったせいで単位も体もひどいことになっていた。
今は週2, 3日なら6時間を切っても心労なく生活できるし、起きられる。耳鳴りも減った。
軽鬱が晴れた
ノルアドレナリンの作用を強める(適正な強度にする)と抑鬱気分が改善される。抗鬱剤としてセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が利用されており、ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を持つコンサータも鬱に効く。ただ、コンサータの場合は、ドーパミンによる動機づけが強まって行動的になれたことでストレッサーに対処できるようになることも抑鬱気分の改善に大きく貢献しているという実感がある(これも実は考え物で、コンサータに自分は助けられているという感覚がコンサータへの依存を強化しうる。まあ医師とよく相談し指示の通りに飲んでいれば支障はない。コンサータは特定の学会にいる専門医でなければ処方するための管理網に入ることすらできないので、この薬に対する処方医の理解は担保されていると言っていいと思う)。
朝から機嫌がいい。人を許せるようになった。歩道で女性が新宝島みたように広がって後進を阻んでいたとしても、あまり気にならなくなった。あまり。歩道にも4車線(人線?)以上設けてほしいとは常々思っている。
作文がめちゃくちゃ早くなった
この項は一番最後に書いている。作文というかほとんど書き散らしの日記だが、この項目を抜いてだいたい5500字。午前中に一気に書いた。話すことが決まっていれば2, 3000字くらい書けたがその量が倍になっている。心理学部で悪名高い講義として、「基礎実験演習」がある。2週間かけて実験を行いつつ数千字のレポートを書かなければいけないがそれを書くのも早くなり、取りかかるための心理的なハードルが大きく下がった。単位を取ることを目標に前期は受けていたが今期からは成績の質も考えられるくらいになった(主に出席とレポートの提出をちゃんとするというところ)。まあこのような日記と違いレポートの考察部分は(学部生の能力に比し)非常に高い水平思考力が求められるので一筋縄ではいかないことに変わりはない。特に自分のように群れを作ら(作れ)ず全部自力で仕上げるしかない野良の思考マッチョには険しい道である。
2024/11/12追記:弾幕STGがうまくなった
悪くなったこと
中枢神経に作用する薬全般(吐き気止めでさえ!)に言えることだが、どこの説明にも乗っていないような変な副作用が現れることがある。自分はある種類の吐き気止めを使うと、目的のない、躁的な強い焦燥感が現れる。またコンサータを飲んでいた幼なじみは、飲むと他者視線恐怖が強まって電車に乗れなくなる。医師は特に説明しないが、思いがけない副作用が自分に限って現れることがあるので、飲んだ後のあらゆる変化を注視しなければならない。
食欲が減った
最もポピュラーな副作用らしい。骨髄移植による老いなどでもともと少食な方だが今回悪化した。飲み始めは朝食を終えるのに2時間かかった。しかも白米抜きで。食べられないわけではないうえ、最近はそこまで極端なことは起きないので、このデメリットは飲む前に感じていた困難に比すれば無視できる程度だ。
疲労を自覚しにくくなった?
そんな気がする。8時間寝なくてもいいなんて信じられない。20代は8時間寝ろってけーねが言ってた。ノンレム睡眠のときに脳が「休」むらしいのだが、ポケモンスリープで記録したグラフを見る限り、レム睡眠とノンレム睡眠の割合は変わっていないように思える。同じ睡眠時間でコンサータを飲み始める前後を比べたとき、確かに疲労感は弱まっているが、自分は実際の疲労が変わっているとは思えない。カフェインや覚醒剤の服用中に疲労を感じにくいように、コンサータも服用中は疲労を感じにくいのではなかろうか。
だから、疲労感で疲労を判断せず、もしまだ活動できると思ったとしてもむりやり休む必要がある。
2024/10/06追記
昨日気づいたら布団の上で二時間くらい気絶していた。本当に危ない。
ワードホリックが止まらない
エアーマンが倒せない、ダイヤモンドは砕けない、岸辺露伴は動かない、袴田巌に罪はない、etc...
ワードホリック(Wordholic)は自分の造語で、文章を読み書きしたくてたまらない衝動のことだ。せっせと使って広めようとしている。ちなみに同名の便利な単語帳アプリがある。もともとASDとして言語コミュニケーションによってものを伝えるしかないのもあり、何かにつけて言語に偏る。
まあ、この文量でワードホリックがいかに深刻かわかると思う。この項目はこのnote全体によって語られている。ワードホリックに高い集中力が重なれば鬼に金棒、電車にジェットエンジン。早すぎるのも考えもので、自力じゃ止まれない。
最後に(一番重要)
良くなったことの書きぶりと依存性という副作用からわかるとおり、これはあくまで生活に支障が出るほどの困難に対する特効薬の一つでしかない。しかも効きの個人差が大きい。健常な注意力を有する人のためのスマートドラッグでは決してない。ドーパミンが正常に作用している脳に対してメチルフェニデートやメタンフェタミンを与えれば、ドーパミンの過多で、覚醒剤の慢性中毒症状として一般的な、妄想や幻覚が表れることもある。大してスマートドラッグとしての機能が健常者に現れないうえ副作用が深刻だから、使ってはいけない。もし(不正な手段で手に入れた)メチルフェニデートを使ってQOLが向上したなら、きっとメチルフェニデートの適応になるくらいの困難をもともと持っていたということだろうから、一度精神科を受診してみたほうがいい。精神科・心療内科を恐れる必要はない。体が風邪を引いたり先天的な疾患を持ったりするのと同じように、脳や心も一時的に調子を崩したり先天的な疾患を持っていたりするだけのことだ。