幼虫社の残響

きっかけが何でいつだったかは明確に思い出せないが、「幼虫社」というアーティストの名を知り、さして動いていなさそうだが存在はしていた公式サイトにてDLできたアルバム「幼虫期」MP3音源を聴いたとき、全身が総毛立った記憶は未だに忘れがたい。
慌ててCDを買おうと思ったら実はカセットテープアルバムで、CD化に伴い廃盤にしました、CD版もう少しお待ちくださいと。
なるほどさいですかと待ちに入ったものの、その後てんで音沙汰がなく、自分自身も学生なりの多忙さで存在を忘れ、あれそういえばと思い出した頃には公式サイトが消えていた。忘れているうちに見逃したのかとネットの海(死語)をかき分けた結果、結局CDは出なかったらしいとわかり、これは笑って別離の手を振るほかないのだと悟った。

かくて私の手元には、公式サイトでDLできた「幼虫期」MP3音源・Amazonで購入できた「廃園」CD・これまたAmazonで購入できた(厳密には幼虫社ではないが、作曲担当・井蛹机氏が作曲参加されている)「福神町奇譚音曲集 音福」「日向夏」CDの4アルバムだけが残った。CDでさえ2024年現在、いずれも巷で新品在庫を確認できない。
いまや幼虫社の音源は、この世数多ある行方の知れないアーティストたちの音楽のひとつとして、種々の動画投稿サイトにてその存在を確認できるばかりである。

幼虫社が新しく何かを出す場にただの一度も立ち会えなかった私は、今なおこの残響にも等しいわずかな音源に齧り付き、必死にその実存を信じている。
そして井蛹机氏はじめ、幼虫社がこの世へ存在するため関わったすべての人、いま消息のわかる人もわからない人も、どうかただ息災であってくれればよいと願っている。