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祭りの後 クリスマス金曜トワイライトを終えて

「クリスマス金曜トワイライト 文学賞」なるイベントに応募し、18日に行われたzoom 表彰式に参加しました。こうしたzoom などを使用するnote 関連のイベントに参加するのは初めてでした。

 そうしたらなんと、拙作がイケマツ賞の金賞を受賞しました。

 このイベントは10月に行われた「リライト金曜トワイライト」のクリスマス版で、前回の盛り上がりを受けてさらに規模を拡大して実施されたものでした。

 このイベントは少々変わっていて、主催の池松さんご自身が書かれた恋愛小説を元に、リライト作品を応募する、というものです。オリジナル作品を応募するのではなく、既に書かれている小説をリライトする。そういう趣向のイベントはほとんど見た覚えがなく、かなり珍しいのではないかと思います。

 前回、このリライトという形式を初めて体験して、他の方の作品も読ませていただいて、リライトだからこそ見えるものというのがあるなと感じました。同じ題材をどのように自分のものにするのか、という視点で他の作品を読むのはとても興味深く、貴重な体験でした。ものすごく自由な発想で書かれたものもあったり、元の文体を忠実に模倣しながら内容を変化させるものもあったり、いろいろな方向の「技量」を垣間見て震えました。

 同時に、前回参加したとき、やはり自分には恋愛小説は難しい、と感じました。池松さんのリライトイベントは、元作品が「恋愛小説」なのです。池松さんも「恋愛小説家」と名乗られていて、そこには重要な要素として「恋愛」があります。しかし以前このような記事を書いたように、わたしには「恋愛」がよくわからない。

 前回のリライトでは元の作品のストーリーを踏襲して、場所の描写などを自分の持ち味に寄せて書き、どうも煮え切らないものが出来上がりました。軸になる恋愛をうまく書けないのでやはり難しいなと。

 それで、クリスマス金曜トワイライトは当初傍観していようと思っていました。リライト作品を読むのは楽しいので、観客として楽しむつもりでイベントの動向を追っていたんです。そうしたら、三本目に出てきた元作品が響きました。何度か読み返して、これは恋愛じゃない、恋愛と勘違いしやすいこの状況はわかる、と思ったんです。それで一息に書きました。

 二時間ぐらいで一息に、途中で詰まることもなく書き上げました。つまり自分の内側にあったんです、この作品として結実するための何かが。翌日の時間指定投稿を設定しておき、投稿時刻までに何度か読み直しました。

 冒頭のアクション部分は短い時間で衝撃的なことが次々に起こり、少年がその非日常性によってアドレナリンの分泌を促されて興奮していく様をスピード感重視で書くべく、ちょっと特殊な文体にしました。これと他の部分との接続を自然なものにする点に難儀しましたが、少年の一人称で、認知速度よりも速く事が起こり、先に身体が反応して後から理解するという状況を描写することで「認知のスピード感」みたいなものを書けたのではないかと思っています。

 男の子あるあるだと思いますが、非日常的な危機は恐怖と同時に興奮をもたらし、ある種の快感を覚えたりする。そして男子にとっていくつかの興奮は全部似通ったものとして感じられ、命がけのスリルみたいなものと性的興奮はしばしば溶け合ってどちらなのかわからなくなる。危機的状況をアドレナリン全開で切り抜けるとき、横に異性がいるとその相手に対して興奮していると錯誤しやすい。スパイ映画などでピンチを切り抜けた二人がいきなり次のシーンでセックスに突入したりするのはこうした理由によるのではないかと思います。(そんな風に見ているからいつまでたっても恋愛がわからないのかもしれない)

 その、恋なのかそうでないのか自分でもわからないという曖昧な心境を、この作品では描けたような気がします。きっと元作品を読んで「これは書かねばならぬ」と感じたとき、わたしは底の方でこの曖昧な何かを掴んでいたのだと思います。

 イケマツ賞は池松さんご自身が「独断と偏見」で選ぶ賞だそうです。他の賞が選考メンバーや読者、書き手など複数の人の意見によって選ばれる中、誰が何と言おうと自分の気に入ったものにやる、という賞。そういう個人的な賞を頂けたことがとても光栄です。

 もちろん大勢の方に気に入ってもらい、多くのスキがついて、といったことは嬉しいのですが、わたしはどちらかというと、あまり大っぴらには騒がれなくても誰かの本棚で一番大切なポジションを占めるようなものを書きたい。

 矛盾しているのですが、気に入ったらシェアしてほしいと思う一方で、あまりにも好きだから誰にも教えたくない、というものでありたいとも思います。

 思えばわたしが好きな作品たちも、何らかの文学賞などで「審査員全員一致で好評」というようなものよりも、誰かが絶賛する一方で別の誰かが「こんなものは文学じゃない」と怒り出すようなものが多いです。平均的に好かれるよりも誰かに絶賛されると同時に誰かに嫌悪されるようなもの。そういうものを書いて行きたいと思います。

 読んでくださった皆さん、ありがとうございました。

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