何もかも出尽くしている今、いかにオリジナリティを出すか

 1990年代の初頭、当時中学校に上がったばかりだった僕は、当時流行っていたハードロックに傾倒していた。当時、EXTREME というバンドのNuno Bettencourt というギタリストが話していたことが今も印象に残っている。原典がわからない(たしかYoung Guitar誌での、3rdアルバムのインタビューだったとは思う)ので言葉は正確ではないが、要約すると「レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジが思いつく限りのギター・リフを全部やってしまったからもはや新しいものを作ることができない」というような話で、彼はそういう思いから半ばやけくそでCupid's Dead という曲を作った、と話していた。

Cupid's Dead はオフィシャルがYoutube に音を上げていたので貼っておく。

 似たようなことがミステリでは「アガサ・クリスティーが思いつく限りのトリックをやっちまったのでもはや新しいものを作るのが難しい」とでもなろう。

 音楽や文学に限らず、あらゆる芸術、創作の分野において、すでにだいたいのものは出尽くしており、いまさら新しいもの、オリジナルなものを生み出すことは難しい。しかし我らは今2020年代という時代に生きているわけだし、なんならこれからさらに先の時代を生きることになるわけで、このなにもかもやり尽くされた世界でオリジナリティを模索していかねばならない。

 では具体的にはどうすればよいのか。

 僕の持論はアホみたいな話の果てに以下のPodcast で話した。StandFm とApple Podcast のリンクを貼っておくのでお好きな方でどうぞ。

 で、この話に、かなり同意できる意見を述べている著名人がいたので紹介しようと思う。

 この人はPolyphia というアメリカのバンドのギタリストで、ティム・ヘンソンという人。このインタビューの15分12秒~ の部分で、「何もかも出尽くした今、どうやってオリジナルであればいいのか」という質問に答えている。

 どうでもいいけど彼のタトゥーはすごい。服を着てるのかと思うほどの面積に及んでいて、こんなに刺青入れて皮膚呼吸は大丈夫なのかなとかいろいろ心配になる。

 ここで彼は件の質問に対して、「可能な限りのあらゆるアートを体感することが大事だ」と話している。とにかくジャンルを問わず、幅広くインプットをしまくってからアウトプットすることで、そこにオリジナリティが立ち上がってくるのだという話をしている。

 これ、実は上で紹介した僕自身のPodcast で話していることとは少々違う。僕は「良い比喩を書くためにはたくさんの作品を読むのではなく、自分の直感を大事にしたほうが良い」と話している。これはインプットが不要だと言っているのではなく、インプットしたものを参考にしようとせず、自分の感覚を磨こうというような意図で話したのだが、このティム・ヘンソンの話を聞いて、自分の中にあった方法論がもう少しうまく言語化できる気がしたので試みてみようと思う。

 インプットって間違いなく自分の糧になり、自分のアウトプットの元になるものだと思う。でもこのインプットの量が不足していると、アウトプットするときに自分の内側にあるボキャブラリー(広い意味でのボキャブラリー、ここでは表現手段のすべて、のような意味)がインプットした個別の何かの部分そのままになってしまったりする。

 インプットの量を膨大に増やすことで、自分の中に蓄積される部品が細切れになり、様々な元要素から部分的に集められたものの集合がチャンクとなり、アウトプットの中に紛れ込む。母数が少ないとこのチャンクを構成するパーツが特定のソースに集中してしまい、ともすると「〇〇に似ている」表現になってしまう。

 たまに、何かに似ることを嫌ってインプット自体を避けるという人がいるけれど、よほどの天才でもない限り、この方法はうまくいかないと思う。そもそも一人の人間の持っている完全なオリジナル要素などというものはそう多くなく、多くの場合それほど魅力もない。(もちろん一世紀に一人いるかいないかぐらいの天才は別)

 むしろ何かに似ることを避けるには、インプットは可能な限り増やしたほうが良いと思う。特に、自分が表現しようとしているものから遠いものもたくさんインプットすると良い。

 上で紹介したティム・ヘンソン はジャンルとしてはロック・ギター・インストのような音楽をやっているのだけれど、代表曲のPlayng God などでも聴かれるように、フラメンコギター風の要素も入っている。これも公式の動画を貼っておく。彼はこれまでのギターヒーローとはだいぶ違うスタイルを持った新しいタイプのギタリストだと思う。


 独特の演奏はギターではなくベースの奏法に近いテクニックも多いし、インタビュー中で挙げている曲も、彼自身のやっている音楽とはだいぶ違う方向のもので、そういう幅広いバックグラウンドの果てにあの音楽が生まれていることがわかる。

 彼はほかにも楽曲のメイキング動画などを自身で挙げているのだが、それを見ると独特のフレージングの正体もわかる。シンセサイザーのオートアルペジエイターで鳴らしたフレーズをギターでコピーして演奏したりしていて、なるほどと思った。あらゆるものが彼のインプットとなり、彼の中で解体、咀嚼され、オリジナルとなってアウトプットされている。

 分け隔てのない膨大なインプット。それこそが、この飽和したコンテンツ世界に新たな波紋をもたらす一石となる、はずだ。

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