[映画]ナイブズ・アウト

 今夜のU-NEXTは『ナイブズ・アウト』。2019年の作品。

 上質な推理小説のようなミステリ映画。密室でこそないものの、山の中の洋館で発見された死体の謎を私立探偵が追う、という定番のスタイル。その私立探偵をダニエル・クレイグが演じている。

 この作品、二重三重にしかけを配置した見事な脚本で、少しずつ情報を開示しながらラストまでスリルを牽引していく。登場人物の中に一人、ウソをつくとゲロを吐くという設定の人がいて、この人だけは、その発言がうそかどうかが客観的に判定できる。もうこのような人物の存在を許容するかどうかというところでこれがミステリとしてどうなのかという判断が分かれそうな気もするけれど、この人物さえ許容すれば脚本はとてもうまくできている。

 特徴的なのは、死そのものの真相と思しきものは比較的序盤ですでに明らかになるという点だ。事件の真相というのが「どのようにして死がもたらされたのか」という点にのみあるのであれば、序盤ですでにその答えは提示される。あとは探偵がそこへたどり着くだけ、という話になりそうなものなのだが、もちろんそんな安っぽいことにはならない。そこに絡まったいくつもの出来事が、次第に「事実」を装飾していく。「事実」だけなら最初のほうで提示されているのだけれど、その「事実」が違った姿を見せ始める。

 終盤からはもはや予想を許さない。事件のあらましはもう見えている。だいたいこんなところだろうと読める。しかしその事件をこの映画の物語としてどこへ着地させるのだろうという疑問がついて回る。どうするのだろうと思いながら最後まで引っ張られていく。

 山奥の洋館、年老いた大富豪、いわくつきの親戚一同、遺産相続、名探偵。凡庸な要素をこれでもかと配置しながら、新しい展開を紡ぎ出す。ミステリを読み慣れている人を驚かそうという意図で描かれているようでもある。ミステリ慣れしている人にこそ、見てほしい作品だ。

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涼雨 零音
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