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[戯言戯言日記] けったいな問題

 どっこいについて考えている。相手チームとおれたちは戦力で言えばどっこいどっこいといったところだ。ところがどっこい、こちらには隠し玉があるんだ。その隠し玉の使いどころさえ間違えなければ我らの勝利も確実だろう。だから今すぐその使い方を考えろと言っているんだこのすっとこどっこい。
 どっこいしょ、と椅子に腰をおろし、わたしはどっこいについて考えている。ある小説を読んでいて「ところがどっこい」という表現にぶつかった。それは強烈にわたしの内側にこだまし、どっこいどっこいどっこいしょ、とソーラン節を引き連れて飛び回っている。どっこいのなにがわたしを引き付けるのかを考えていて、自分がかつて書いた文章を思い出した。どこに書いたのか探して引っ張ってきたので引用しよう。

「あのカメラはハッセルって言うんだ。ハッセルブラッド。六センチ四方の正方形が撮れるの。わたしハッセルっていう名前が好きでさ。語感っていうのかな、タッタタっていうリズムね。四つ並びの十六分音符で二つ目だけ休符になってるやつ。ハッセル、ラッセル、ハッスル、マッスルみたいな。このカップはイッタラだけどイッタラも同じリズムよね。日本語だとどっさりとかたっぷり、どっきり、どっぷり、すっきり、ぴったり、ぎっしり、めっきり、ね。さっぱりする感じでしょ、やっぱり」

「雪町フォトグラフ」より

 なるほど。リズムであった。どっこいもここに挙げたたくさんのタッタタと共通の音符で記譜される。これだけ羅列したのにどっこいが書かれていないことも注目に値する。だからこそ、ところがどっこいに引っかかったのではあるまいか。すっかりどっこいに憑りつかれたわたしは午後いっぱいどっこいについて考え続けている。

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