[映画]DARK STAR/H・R・ギーガーの世界

 今夜のU-NEXTは『DARK STAR/H・R・ギーガーの世界』。2014年の作品。

 2014年てギーガー最晩年ですね。これは本当にその晩年に撮影された映像。いやほんと、よくぞ生前にこれ撮っておいてくれた、という映像ですよ。

 以前紹介したピカソのやつと同系統の作品だけれど、ピカソのが作品制作の実況中継みたいなものだったのに対し、こちらは最晩年を追った正統派のドキュメンタリーといった体裁。作風が尖りまくっているギーガーだけれど、本人は少しシャイな印象で、質問にも訥々と真摯に答えている。作品から想像されるほど異端な人物ではない。たしかに自宅を兼ねたようなアトリエは雑然としていてやはり決して普通の人ではないように見受けられるけれど、基本的に礼を失しないし、激高したりもせず、周囲の人へのリスペクトもある。とてもナイーヴな人なのだろうという印象を受けた。

 驚いたのは、あのギーガーと言ったときに真っ先に思い浮かぶ金属的な質感で描かれた絵の描き方。なんと下書きなしでいきなりエアブラシで描いていくらしい。どんなものが仕上がるのかわかっていないから描きあがって本人も驚く、という衝撃の言説が登場する。あれほど緻密に計算しつくされたような構図の絵が、ノープラン行き当たりばったりで描けるものなのか。

 ギーガーって天才なのでは?

 知ってた。

 わたしがギーガーを知ったのは、実はエイリアンではなく、EL&P(エマーソン・レイク&パーマー)のアルバム「恐怖の頭脳改革」のジャケット。もっと前にエイリアンは見ていたけれど、エイリアンを見たのは小学生の頃で、そのころはあのクリーチャーのデザインが誰だ、とかいうことにはまったく注意が向かなかった。そもそも監督がリドリー・スコットであることもだいぶ後になって知ったぐらいだから。そんなわけで、わたしのギーガー体験はEL&Pのアルバムから始まる。「恐怖の頭脳改革」(どうでもいいけどものすごい邦題だ)のジャケットには衝撃を受け、来日公演の際にそのジャケットアートをプリントしたTシャツを購入し、いまだに愛用している。もう20年以上着ていることになるのか。このアルバムは音の方も相当な衝撃だった。わたしの頭脳もだいぶ改革されたと思う。

 終盤、ギーガーミュージアムが完成し、サイン会をしているシーンがあるのだけれど、客層に特徴がありすぎて面白い。全身刺青だらけのメタルっぽい風貌の人が大変多い。この客層を見るだけでも、彼が他に類を見ないワン・アンド・オンリーな存在であることが伺える。

 ラストではこの撮影の直後にギーガーは亡くなったというテロップが入る。いやほんと、よくこれ撮影しておいてくれました。本当に貴重な映像です。

 ギーガーのアートは万人受けするものではないのでこの映像も万人向けではないけれど、世界を揺るがした圧倒的な才能の一端を垣間見るという意味で見応えのある映像なのは間違いない。

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