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[戯言戯言日記]アナザー自分

 以前、サブスクリプション契約のサービスをあれこれ契約して支払いが大変だという話を書いた。

 いろんなものに支払っている金額を考えながら、適切な「月額」について考えたものだ。日付を見ると昨年のクリスマスにこれを書いている。それから半年。現在、わたしはSpotify以外のコンテンツサービスを全部退会し、レンタルサーバを別の会社へ移行し、「毎月のお支払い」を大幅に見直した。

 特に大きいのはあれほど見ていたU-NEXTとNetflixをどちらも解約したことだ。

 理由はごくシンプル。見なくなったからだ。なぜ見なくなったのかというと、ゲームを始めたから。

 FF14。いわゆるMMORPGと呼ばれるオンラインゲームだ。これを2021年の2月ぐらいに始めた。むちゃくちゃ面白い。

 ファイナルファンタジーはドラゴンクエストと並んで世界的に有名なRPG(ロールプレイングゲーム)のタイトルで、改めて言うまでもなく皆さんも名前ぐらいは聞いたことがあるだろう。FFという略称で親しまれているシリーズで、ナンバリングタイトル(タイトルに番号が付いているもの)が15まで出ており、そのほかにも周辺スピンオフコンテンツみたいなものが大量にある。ナンバリングタイトルのうち11と14がオンラインのMMORPGで、14も実はもう10年以上サービスが続いている、どちらかというと古いゲームである。

 これを今さら始めた。

 わたしがFFを好きな理由のうちかなり大きな要素として、悪役の魅力というのがある。FFに限らずRPGというタイプのゲームは一般に、プレイヤーは物語の主人公になり、何らかの目的(多くは悪の権化みたいなやつをやっつける)に向かって冒険し、成長していく、という内容だ。主人公は貧乏かつ弱っちい状態で作品世界に登場し、モンスターと闘いながら成長していく。

 世の中には実に様々なRPGがあるが、おおむねこの構造は変わらない。

 多くは、何らかの「悪意」が存在し、それによって善良とされている民衆が虐げられている世界で、主人公が一念発起してこの「悪意」を打倒するという話になりがちだ。ドラゴンクエストはこれをシンプルに、ドラゴンをクエスト(探索)するという発想で、世界を牛耳ろうとする龍をやっつける話である。(ちゃんとドラゴンをクエストするのは一作目ぐらいであとは特にドラゴンをクエストしていない。ファイナルファンタジーも最初からファイナルだったが今のところファイナルする気配はない)

 FFの魅力は、「悪意」の側に意思があり、行動に根拠がある点だと感じる。わたしはFF11も好きでやっていたのだけれど、11は割とこれまで通りのファンタジーだった。序盤のボスは「善意」の側にいたものが、悲しい出来事をきっかけに闇の意思に呑まれ、悪魔と化してしまったようなものだった。「愛ゆえに」歪んでしまったサウザー(北斗の拳)のような哀しさがあった。これも魅力的だったが、FF14のストーリーにはそれどころではない魅力がある。

 FF14はシンプルなファンタジーではない。ドラゴンや精霊が出てくる世界に剣と魔法で挑むという図式という意味ではファンタジーだけれど、描かれているのは政治なのである。星の意思といった神々の世界も描かれるが、宗教として信仰される神はその信者たちによって地上へ召喚され、蛮神(野蛮な神という意味か)として主人公たちに討伐される。

 様々な種族がそれぞれの神を信仰している世界に、いわゆる人類っぽいものたち(これもいくつかの種族が混在している)が勝手に敷いた「社会」という構造。その中に立ち上がる国家とその思想。それぞれの思惑が摩擦や軋轢を生み、そこに戦争が生まれる。

 戦争というのは交渉だ。あるのは思惑であって善悪ではない。主人公たちが敵対する相手も一つの勢力ではなく、いくつかの勢力にわたる。それぞれ思想が異なる上に、そのすべての勢力が目指しているのは「争いのない世界」なのである。

 つまり全員正義だ。それぞれの正義のために、それぞれの方法で世界を変えようとしている。思惑がズレて衝突が生じる。悪役の放つ言葉に意思を感じる。向こうの言い分からすれば、こちら側の政治が民衆の苦しみを生んでいる。そして民衆の中にも、敵側につく者たちがいる。

 FFだから面白いだろう、というタイトルへの信頼はもちろんあったのだけれど、それをはるかに上回る面白さだった。メインストーリーの最初の章を終えた時点で、U-NEXTとNetflixを解約した。1か月半ぐらいまったく見ず、ずっとFFをやっていたからだ。

 それからさらに時間が経過し、更なるストーリーが展開された。世界はどんどん広がり、国家間の衝突の裏で光と闇といった抽象的なものの衝突もある。主人公は光の加護を受けた英雄であるが、光が氾濫して世界を滅ぼしてしまったという世界線からやってきた別の光の英雄とも出会う。世界を救うために奮闘した結果、その世界を滅ぼしてしまった別の世界の英雄。

 なにを信じて進めばいいのか。自分たちがなぎ倒した相手は本当に「悪」なのか。誰かの信仰する神を滅ぼしながら、誰かの信じる理想を破壊しながら、主人公は前進する。よくできた映画を何本も見続けているような感覚だ。一本のゲームでは実現できない重厚なストーリー。それを可能にするMMORPGという形式。

 もう一人のわたしがこの世界の主人公となって葛藤しながら物語を歩んでいる。しかも、MMORPGなので、わたしと同じようにこのゲームをプレイしているプレイヤーが大量に、同じ世界で暮らしている。みんな光の戦士だ。

 ストーリーの中では一人の主人公としていくつもの出会いと別れを経験し、日々さまざまな正義と衝突しながら進む。さらにそれぞれが主人公である個々のプレイヤーたちとの出会いがあり、彼らと交流しながら難しいコンテンツに挑んでいく。パーティを組んで強敵に挑む仲間たちの向こうに、そのキャラクタを操作している、世代も職業も住んでいる地域も異なるどこかの誰かがいる。オンラインゲームの面白さはそういうところにある。

 もはやゲームをしているという感覚ではない。わたしはもう一人のわたしを、生きている。

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