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三日月の向こう側

「山がみんな同じに見えるんです、あれが何岳であっちは何山ですよとか言われてもイコミキみたいでどれが何やら」

 町はずれのカフェで彼女とカウンターに並んで最後のフレンチトーストをつついていると奥の席の話し声が聞こえてきた。

「ね、イコミキってなにかな」

 僕が聞くと、彼女は手帳と万年筆を出して文字を書いた。

 〝已己巳己〟

「こう書いてイコミキ。似てるっていうこと」

「へえ」

 北海道のちょうど真ん中あたり、大雪連峰に抱かれるようにある東川町。土地の人にははっきり違って見える山もよそから旅行で来た人には区別がつかないみたいだ。

 僕にいろいろなことを教えてくれた彼女は明日、旅立つ。ホームステイでスウェーデンへ行くのだ。日本人の彼女はきっと目立つだろう。でも僕はこの町から、異国の町に溶け込んでいく彼女を見分けることができるだろうか。

 彼女はこぼれそうなシロップをすくって指を舐めながら微笑んだ。

《了》

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