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神様のついた嘘

 気心の知れた仲間たちと挑んだ勝負だった。制限時間ギリギリで仲間たちも疲弊していた。

「一か八か、行くぞ」

 僕は叫んだ。

 トルテが弱体魔法を唱え始め、僕と仲間たちが走り込んだ。トルテの魔法が僕を追い越してゲート・キーパーの巨体をとらえる。直後、ジャンプした僕は回転しながらゲート・キーパーの腕を潜り抜け、甲冑の隙間に刃を叩きつけた。同時に仲間たちもゲート・キーパーの両足に切り込む。刃に蓄えられた電撃が甲冑の内側に走る。ゲート・キーパーの仮面の奥でどくろがおぞましい声を上げた。僕は刃を引き抜いて後退する。仲間たちも離れる。ゲート・キーパーは咆哮を上げながら光の粒になり、空へと消えて行った。

「やったわね、ハミル」

 駆け寄ってきたトルテが僕の耳元で言った。

「んー」

 僕は椅子の背もたれに体重を預けて伸びをした。夜ごと進めていたオンラインゲーム。そのエピソードのボスであるゲート・キーパーをやっと倒すことができた。仲間たちにチャットを送って僕はベッドにもぐりこんだ。

 朝、目覚ましよりも先に電話が鳴って僕は目を覚ました。だれだこんな朝早くに。スマートフォンの画面には「非通知設定」と出ていた。僕は布団をかぶったまま電話に出た。

「もしもし」

「もしもし、ハミル?」

 女の子の声だ。ハミルはゲーム内での僕の名前だ。本当の名前は美晴。電話番号を教えたゲーム仲間なんていたかな、とぼんやり考えていると相手が言った。

「わたし。トルテよ」

 僕は一気に目が覚めてベッドの上で体を起こしていた。トルテはゲームの中だけのキャラクタだ。そのトルテから電話? 

「だれだって?」

「トルテだってば。相談したいことがあるの。来てくれる?」

 僕はデスクの上で沈黙しているパソコンを眺めた。昨夜ゲームからログアウトして電源を落とした状態のままだ。

「相談したいことってなに?」

「世界のこと。わたし気付いたのよ。この世界の本当の敵がだれか」

[続く](800文字)

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