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詩 『猫の爪を塗る』

猫のような君はいつだって勝手で いつだって退屈そうで いつだって美しかった
気まぐれに顔を出す太陽であり 感情に突き動かされる風であり
でたらめに降っては勝手に消える雪のようだった

チーズケーキを食べたいと言った君 一口食べてフォークを投げ出す
そんな君に振り回されながら 僕はまるでルアーのように君の思うとおりに動く

暗い日々が 怪しい呪いが 少しずつ君を取り巻くようになる
スポットライトのあたる世界に君を引っ張り出し 君は自分を殺して
煌びやかに輝く君は 僕を見て笑った そして言う 爪を塗ってと

標識も信号機もないこの世界 守られる人間は選ばれた人間というこんな世界で
消費されては新たに生産される綿菓子のように
本当の気持ちを忘れた君は 僕にしか見せない悲しく儚い笑顔を見せて
偽りの光が差し込む世界に漕ぎだしてく

やがて大粒の雨が降り始める 世界中の家も人も山も海も 全てを等しく濡らす
雨に打たれながら君は笑う 目から零れ落ちる水滴
雨に溶けた作り物の仮面が崩れて落ちて 本当の君がこちらを向く
その笑顔が眩しすぎて 触れてはいけないもののようで僕はたじろぐ
儚い微かな残影を残して 君は僕の前から消えていなくる

そして僕は爪の赤い猫を飼う

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