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【小説】 寂しがり屋の少年1

初めましての方は初めましておそばです。この作品をお手に取っていただきありがとうございます。お時間があれば拙い文章ではございますが最後まで読んでいただけると有難いです。

寂しがり屋の少年1

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少年は、小さな村に生まれた。生まれつき右腕が無く不自由な生活をしていた。村の中では化け物と罵られ両親は少年の介護に疲弊し一人村に残し逃げた。

それは、少年がまだ幼く一人で生きる事の出来ぬ三歳のことであった。

一人残された少年はなにもわかっちゃいなかった。ただ腹をすかせたたと泣いている幼子だった。

今年で六歳となった。ここまで生きれたのは婆のお陰だと思う。泣き止まぬ少年を心配しやってきたのがこの婆でそれから古民家に婆と二人でずっとお世話になっていた。

少年にとって「婆」という人物は不思議な人だった。あまり喋らず婆はよく手で物を語る。

四歳の春、蝶を追い気付くと見知らぬ山道であった。蝶だけを見ており周りのことなど見ていなかった少年は婆が来てくれるだろうと桜の花弁で遊び待っていた。しかし、日が暮れていくとともに不安感が募る。

婆は少年のことなど捜してくれぬのだろうかという焦りが少年の心に生まれた。それと同時に「寂しい」という感情を一つ覚えた。

春とはいえまだ肌寒く身を縮める。日が暮れ落ちる時に一頭の蝶が目の前を過ぎる家路を急ぐ蝶をただ黙って見つめていた。
次第に見えなくなり夜闇の中に孤独と寒さと寂しさだけが残る。

ザクザクと砂利達が擦れあい誰かが近づく気配がした。獣だった場合少年は死ぬ。恐怖で頭が俯いていると足音が目の前で止まる。息を飲み震えていると頭に拳骨が落ちた。

見上げると羽織を着た婆がいた。安堵と驚きで目を見開いているとまた婆の手が頭に乗る。優しく温かい手で優しく少年を撫でる。婆の手にも慈しさと安堵が混ざっていた。
「ごめんなさい、ごめ、んなさい」
涙が一粒零れ落ちると続けて二粒、三粒と次々と流れる。手を牽かれ後に続き握りなおす。婆の皴のあるこの手がこの日の少年の寂しさを拭ってくれた。
帰り道婆が口を開いた。
「人の一生は長い、70も80もある。だけど、始まりがあるからこそ終わりがある、人の終わりなんざいつ来るかわからにゃ、あんたは大きくなって色々な物を見なさいそして体験しなさい。だから迷子で死ぬなんてアホな事しちゃいけんよ」
山を下りると月が昇っていた。明かりはなく虫の音だけが響き渡っていた。

              

少年が六歳になった冬のこと、婆は動かなくなった。
「婆?おてて冷たいよ」
布団の中で安らかに命の灯が消えた婆を少年はただ黙ってみていた。
夜になっても婆は起きない。ずっと前に婆が話してくれた[眠り姫]のお話のように綺麗に眠っている。
「婆、起きて。お腹が空いたよ」
婆の顔に近づき話しかけるも呼吸音さへしない婆に不安を抱き裸足で隣の家に走った。

焦りなのか不安なのか何とも言えない気持ちが募りに募り涙の雫が地面に落ちていく。隣の家は十五分ほど走った先にあった。

小石が足の裏を傷つけても気づかないほど少年は夢中だった。ようやくついた家のドアを叩く、何度も何度も叩いた。驚いた顔で三十代の女性が出てきた。
「なによ、こんな夜に」
「助けてください、助けてください。婆が起きないんです、助けて婆を起こして」
少年の慌てように女は何事かと思い対応してくれた。

そこからの記憶が曖昧だった。慌てて婆の家を確認して村の者に知らせた。
「亡くなってるわね、もう年だから何時亡くなってもおかしくなかったからね。お気の毒に」
少年の肩を叩いて女は出ていった。呆然と立ち尽くしていた。

婆が死んだ?ありえない、昨日まで笑って頭を撫でてくれたではないか

いくら想いを嘆いても目の前には氷のように冷たい婆がいた。それは、まぎれもない事実であり現実であった。

「婆、起きてよ。ねぇ、目を覚ましてよ」
ポタポタと顔から水が零れ落ちる。涙の数だけ婆との思い出が溢れる。
白の布が顔に被せられた婆を見て涙が止まらない。
これからどう生きていけばいい
これから何をして生きていけばいい

右腕もたった一人の大切な人を失った少年は何を求めて生きていけばいい

一話 終

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