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「鉄路の行間」No.2/石川啄木と好摩駅

 石川啄木と渋民村は切っても切れない。故郷を詠んだ絶唱は、この大歌人の作品のなかでも、特にせつない。

 元の東北本線、現在のIGRいわて銀河鉄道には「渋民」という駅がある。石川啄木記念館の最寄り駅で、歩いて30分ほど。2019年には「啄木のふるさと」と副駅名が付けられた。駅舎や跨線橋には短歌がたくさん掲げられている。


渋民駅
IGRいわて銀河鉄道渋民駅。 写真:bakkai (CC BY-SA 3.0)

 彼が汽車に乗る時は、まるでここを使ったかのような顔をしているが、この駅の開業は1950(昭和25)年。啄木は1912(明治45)年に若くして没している。苦笑せざるを得ない。僭越ではあるまいか。

 啄木が故郷の駅と呼んだのは、1891(明治24)年開業の好摩である。新しい駅舎には筆跡から文字を集め、「こうま」と掲げられた。

好摩駅
好摩駅(西口)
好摩駅待合室啄木歌碑
霧ふかき 好摩の原の 停車場の 朝の虫こそ すずろなりけれ

 かつてホームにあった木製の歌碑は、今は待合室に移されている。
 駅前にも別の歌碑がある。

好摩駅前啄木歌碑
ふるさとの 停車場路の 川ばたの 胡桃の下に 小石拾へり

 この歌は、第一歌集『一握の砂』にも収められた。

 渋民村から好摩駅までは約4km。昔の人の足なら1時間とかからなかっただろう。啄木が最後にここから汽車に乗り込んだのは明治40(1907)年だ。函館へ向かう時で、これを最後に二度と渋民には帰らなかった。



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