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「CBM」ってなに? それで働き方改革って? 進化し続ける鉄道車両機械技術の世界【業界解説】

就活生の皆さんのための鉄道業界解説記事、第二弾は「鉄道車両機械技術の世界」です。
なお業界解説記事をまとめたマガジンはこちら↓

鉄道車両ならびに、ホームドアや自動改札機、融雪機など幅広い分野にわたる機械設備を扱う鉄道車両機械技術は、鉄道業界の中でも領域が広く、奥の深い分野です。

今回も「どんな仕事があるのか」「業界は今どのような状態なのか」そして「今後どうなっていくのか」について、学生の皆さんからの疑問に答えるべく、プロフェッショナルの方にお話を伺いました。

ご協力くださったのは、国鉄・JR東日本・JR東日本テクノロジーにおいて長年車両の分野に携わり、日本鉄道車両機械技術協会においても業界への貢献を続ける守田 光雄専務理事中山 修一車両部長のお二人です。
それではどうぞ!

車両の誕生から廃車まで 駅設備も守備範囲

――最初に協会名の「鉄道車両機械技術」ですが、何を表わすのでしょうか。

守田 鉄道車両を人の一生に例えれば、誕生(新製)から成長(メンテナンスや改造)を経て、最後に生涯を終えます(廃車)。それぞれの過程では、計画や設計、施工、メンテナンスといった工程が必要になります。

台車の検査を行っている様子。鉄道の安全運行を支える大事な作業だ。 提供:日本鉄道車両機械技術協会

もう一つ、鉄道車両からは離れますが、最近は駅設備にも数多くの機械・機器類が導入されます。代表的なのはホームドアや自動改札機、さらにはエスカレーターやエレベーターなどのバリアフリー設備北国の鉄道では、除雪や融雪の装置も列車運行に欠かせません。これらを総称するのが、「鉄道車両機械技術」(以下、車両機械技術)なのです。

近年急速に整備が進むホームドアのメンテナンスも、安全に欠かせない業務。 提供:日本鉄道車両機械技術協会

――なるほど、鉄道車両や駅設備も機械という視点でみれば、それぞれの過程で技術が必要になるわけですね。

守田 鉄道車両の寿命は大体40年といわれます(新幹線はもっと短いのですが)。その間、ずっとお客さまを乗せ続けることを考えれば、決められた品質の維持は、安全のためにも絶対に譲れないところです。

新製と廃車(廃棄)の間にずっと存在し続けるのがメンテナンス。メンテに求められるのは、車両や設備がどんな状態にあるのかを正確に知ること。方法としては、定期的な検査と状態を監視する検査とがあります。

いずれにしても、人間と同じように日々の健康チェックが欠かせません。鉄道が健康を維持するためのドクター、それが車両機械技術の仕事とお考えいただければと思います。

鉄道事業者とパートナー企業が力あわせる

――日々のメンテナンスは、どのように行われるのでしょうか。

守田 鉄道車両は一般に車両区とか車両センターといった車両基地に所属し、そこで日々の点検を受けます。事業者によって多少の違いはありますが、何年かに一回は鉄道車両工場に入って分解修理を受けます。

車両工場では、鉄道事業者の社員・職員のほか、パートナー企業の社員も加わって点検・修理を担当します。駅設備も基本は同じですが、車両と違って自分では動けないので、担当者が駅などに出向いて点検や修理を行います。

車両や駅設備は、何万点もの部品で構成され、部品メーカーや測定機器類のメーカーなどが、事業者やパートナー企業を背後から支えます。そうした多数の企業、そして担当社員・職員の技術力・人材力で、鉄道業界は成り立っているのです。

鉄道に興味を持つ皆さん、鉄道が大好きという皆さん、これまでお話ししたように車両機械技術という入り口から鉄道業界に入り、活躍する場があることを、ぜひとも知ってほしいですね。

故障を予知してトラブルを未然防止

――最近の鉄道車両や駅設備は〝電子機器の固まり〟といわれたりします。そうした変化は、車両機械技術の世界にも何か変化をもたらしていますか。

守田 仕事のやり方はずいぶん変わっていますね。代表例として若干専門的になりますが、車両保守の新しい考え方をご紹介しましょう。

これまでの鉄道車両は、自動車の車検と同じく決められた期限までに、トラブルがあってもなくても、必ず検査や修理を受けなければならない決まりでした。しかし、期限がくる前にトラブルが発生する可能性もある。そこで最近、急速に技術開発や普及が進んできたのが「状態基準保全」です。

技術進歩はメンテナンスの考え方にも影響を与えており、車両機械技術も例外ではありません

状態基準保全では、検査周期にとらわれることなく、車体に取り付けたセンサーやカメラで車両を日常的に状態(常態)監視し、故障を予知してトラブルを発生前に食い止めます。状態基準保全は、トラブルの芽をつみ取ることで列車運休などを未然に防げる。さらには車両を長期間、工場に入場させて休ませる必要がないなど、多くのメリットが生じます。

ICTやAIの活用で働き方改革

――車両機械技術の世界も、十年一日ではないようですね。

守田 その通りです。われわれの業界も車両や機械を修理するだけでなく、ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、ビッグデータに代表される新しい技術を採用して、故障そのものを防止する方向に進んでいます。

新規技術は、安全性や安定性を高めて鉄道に対する社会的信頼を高めるほか、いわゆる重労働を解消して、業界で働く人の働き方改革につながるメリットもあります。

作業改善を達成したCBMの例。門型柱に設置された装置で屋根上を、レール間の装置で台車の状態を監視。故障の未然防止に加え、作業員の高所・床下作業の減少による効率化・安全性向上に効果を発揮。

人材面の話題に振れば、当協会の会員企業からは機械の好きな方、機械に強い方ばかりでなく、電気や電子を学んだ方にも、ぜひ業界に入ってほしいという声を数多く聞きます。

ICTの技術進歩で社会は今、「第4次産業革命の時代」といわれます。車両機械技術も当然その渦中にあるわけで、業界の明日を切り開くフレッシュな人材が活躍するフィールドは無限に広がっています。

――車両機械技術の世界も、社会の変化に連動するのですね。

守田 このところ、鉄道車両に防犯カメラや通報装置を設置する改造工事が盛んになっています。こうした流れも社会の動きを反映したものといえるでしょう。

業界の構図にも、変化がみられるようになっています。これまでの鉄道業界はJRや大手私鉄が頂点に立ち、その下にグループ企業やパートナー企業がついて仕事を受注する、いわゆるピラミッド型の構造でした。

しかし、最近はグループ企業、パートナー企業が力を付けて、大手事業者から受注する仕事を手がけながら、独立して他社の仕事を請け負う事例が珍しくなくなっています。

もう一つの変化でいえば、ICTやAIに代表される新しい技術を鉄道に取り入れるため、様々な業界の企業と連携する動きが盛んです。鉄道事業者以外から鉄道の仕事に就くチャンスが増えているということで、学生の皆さんは、視野を広げて業界や就職先を選んでほしいと思います。

変革期迎える鉄道車両機械技術業界

――機械技術の世界も、〝メカ好きな方〟だけの世界ではなくなっているのですね。

中山 前にも話しましたが、最近の鉄道車両や駅設備はそれこそ〝電子回路の固まり〟。一方で鉄道事業者の立場では、電子機器類に対応する方法は、まだ固まっていません。

一例を挙げれば、電子機器に軽微なトラブルが発生した場合、自社で修理する鉄道事業者もあれば、メーカー任せの事業者もあるといった具合で、そうした点も業界総じて人材育成が必要な理由といえます。

守田 駅設備でいえば、ホームドアが普及しています。ホームドアは初期に多くみられたフルスクリーン型ばかりでなく、昇降ロープ式、昇降バー式、軽量型といった新しいドアの開発や普及が進んでいます。

片側3ドアと4ドアの車両が混在する線区は、ホームドアが導入しにくいといった課題があったのですが、マルチドアに対応するホームドアも開発されています。

駅への整備が進むエスカレーターやエレベーターでは、省スペースで設置できるバリアフリー設備の必要性が、社会的に高まっています。これまで申し上げてきたように、鉄道車両、駅設備の双方で業界挙げた技術課題が目白押しです。
当協会もそうした変化を踏まえ、セミナー開催や参考図書類の編集などに力を入れています。

学生の皆さんへ:作品を形に残す

――最後に本サイトをご覧の学生の皆さんへのメッセージを。

中山 話には出ませんでしたが、今後の鉄道業界の課題といえるのが列車の自動運転で、鉄道第4次産業革命の象徴になるはずです。

その自動運転を象徴とするように、メーカーやスタートアップ企業が力を付ける中で、鉄道事業者には「メーカーがどういう技術を持つのか知りたい」のニーズが高まっています。逆にメーカーからは、「事業者にどんなニーズがあるのか聞かせてほしい」の声が聞こえてきます。

グループ企業やパートナー企業を含む鉄道業界、もちろんメーカー、スタートアップ(ベンチャー)もあわせてですが、業界を橋渡しする次世代のリーダーに、ぜひ鉄道車両機械技術の世界を志望してほしいとエールを送ります。

守田 自分が設計や製作した車両が走る、駅設備をお客さまが利用する。〝自分の携わった作品〟を形に残せるのが、この仕事のだいご味といえるしょう。

もう一点、日本政府が最近、鉄道システムの海外展開(輸出)に力を入れていることは、学生の皆さんもご存じでしょう。そうした流れに乗って、海外志向の社員・職員が増えているのも最近の傾向です。

中山 今は鉄道事業者もメーカーも、人材育成に力を入れています。私自身の経験をお話すれば、新人社員の時は鉄道車両の構造や技術について十分に理解できませんでしたが、現場に配属されて、先輩の話を聞いたり現車に触れたりするうちに徐々に理解できるようになりました。

これまでの鉄道人生を振り返れば、いくら技術が進歩しても最後を締めるのは人の力、つまりは「現場力」という気がします。その点でも、「現場が好き」「現場で働きたい」という方には、ぜひ業界の一員に加わっていただきたいと思います。

守田 鉄道技術も以前は車両(機械)、運転、施設、電気と明確に分かれていたのですが、最近は境界があいまいになっています。車両の世界でも電気技術が求められるように、多角的な興味や才能が必要とされます。

最後に一言、鉄道車両や駅設備の仕事は日々変化に富み、流れ作業や同じ作業の繰り返しでは断じてありません。「日々飽きることはない」、これだけは強調させていただきたいと思います。

おわりに

お二方の話し振りからは、車両機械技術の奥深さ、面白さ、そして技術革新によってダイナミックな変化を遂げている現状が伝わってきました。
また鉄道事業者以外にも多くの会社が関わっていること、そして会社同士の関係性の変化や日々の技術発展についてのお話は、長らく業界に携わっている方ならではのものであったと思います。

ここまで読んでいただいた皆さんには、鉄道における機械分野、そして電気の働きの重要性と面白さがお分かりいただけたのではないのでしょうか。次回の更新は、そんな鉄道と電気の関わりについての予定です。興味がある方はもちろん、関係ないな、と思っている方も、他の業界や業種との比較ができること、自分のやりたい仕事を客観視できることは就活にとって必ずプラスになりますので是非ご覧ください。
⇒更新しました

#鉄道 #就活 #車両 #機械 #業界研究

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