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プラオレ!から学ぶ言語学

こんにちは。かみなりひめです。

晴天を突如としてつんざく雷鳴に、
の訪れを感じています。繁忙期だ!笑

いつも以上に忙しない夏ですが、
働きすぎると疲れも溜まるというモノ。

通勤時間でダラダラ動画を見ることが
癒しのひとつであるワタクシ。

今日もYouTubeを徘徊していると、
あるサムネイルが飛び込んできました。

朗読によるASMR?みたいなこと
なのだと思いますけれど。けれども。

私は思ってしまうのです。

「さすがに "耳障り" が "いい"
 なんてワケ、ないでしょ?」

1. "耳障り" が "いい" という矛盾

小学館『日本国語大辞典』を紐解くと、

みみ‐ざわり[‥ざはり] 【耳障】
〔名〕(形動)
聞いていて、気にさわること。聞いていて不愉快に感じたり、うるさく思ったりすること。また、そのさま。

と記載があります。

ここで挙げられている使用例は、
江戸時代の滑稽本のものでした。

確かに「」という字には、
へだてる」「はばむ」「さえぎる
といった意味があります。

それぞれ微妙に意味は異なるものの、
邪魔である」「不快だ」という
ニュアンスは共通しています。

また、日本語の動詞「障る」には
邪魔になる」「支障をきたす」など
マイナスの意味合いが付きまといます。

今でも、「差し障りがある」とか
アイツは目障りだ!」と使いますよね。

つまり、
字面の通りに「耳障りのいい」を
解釈しようとすると、
聞くに差し障りがあるが、良い
という矛盾する意味合いになります。

これでは相良茉優さんや青山吉能さんに
かなり失礼な言い方になるのでは?

2. でも使っちゃうよね、という話

一見(一聞?)して矛盾する言葉
耳障りのいい」についてあれこれと
考えているうちに、我が脳内で

あれ? でもこれどこかでも聞いたな?

という思いに駆られたワタクシ。
そして、脳内検索でヒットしました。

鼓膜の中に残る
あなたの耳障りのいい言葉なんて
ナンセンスな日常だ躁鬱
  (ポルノグラフィティ「リビドー」)

開始冒頭すぐの歌詞で、すぐに
「?」となる表現が入っているのを、
逆にセンスとして褒めたいくらいです。

さて、平成14年に文化庁が実施した
国語に関する世論調査」を見ましょう。

 (詳しくは上のリンクからどうぞ)

ここでは、「耳ざわり」をはじめとして
確信犯」「気が置けない」「役不足
といった8つの慣用句などについて、
① 聞いたこと・使ったことがあるか? 
② その意味は何か?
ということを調査しています。

耳ざわり」という言葉については、
聞いていて気にさわること」と理解
している人が全体の86.5%であり、
聞いたときの感じのこと」という意と
捉えている人が8.8%存在していました。

文化庁はこの調査においては、
耳ざわり」の正しい意味としては
聞いていて気にさわること」を
支持しています。もちろんですが。  

ただ、このような時代の流れからか、
先の『日本国語大辞典』においては
実は「耳ざわり」の別項目があります。

みみ‐ざわり[‥ざはり] 【耳触】
〔名〕
聞いたときの感じ、印象。

確かな用例は1900年代に入ってからの
ものではありましたが、「耳触り」なる
語は間違いなくあるようです。

3. メイン:言語における類推

耳障り」と「耳触り」。
同音異義語の関係にある二語ですが、
ここで仮に文化庁の言うとおり、
耳障り」が本来の用法だとしましょう。

このとき、「耳触り」という語は
どのようにして誕生したのでしょうか?

この問いに対するヒントになるのが、
パウルの比例式」というモノです。

これは既に知っている言葉から、
未知の言葉を類推する
ときに使用される
比例式であります。

たとえば、ピンク色のペンキに触れて
手がピンクくなっちゃった」なんて
言うこと、ありませんか?
ありますよね? そう、あるんです。

この場合は、たとえば
」という名詞に対して、
その形容詞形は「赤い」であるという
関係性から考えていることになります。

これを比例式にすると、
 赤:赤い=ピンク:x
よって、x=ピンクい となります。

ただ、このような類推は、
ときに「ピンクい」のように、
誤った形を導いてしまうことが
往々にしてあります。
(=「誤った類推」false analogy

今回の「耳触り」についても、
このパウルの比例式で説明が可能です。

たとえば、
 手:手触り=耳:x
という比例式を考えてみると、
xに当てはまる語は何でしょうか?

言わずもがな、x=耳触り ですね。

言葉は進化している」なんて
よく言いますが、人間の頭の中では
このようにして言葉が産み出されている
という一端を垣間見ることができました。

4. おわりに

ここまで書いて言うのもアレですが、
文化庁がこの「耳ざわり」については
スッキリ解説してくれています。

その最後は、このような文章で
締め括られています。

以上のように,今のところ,「聞いたときの感じ」の意味で「耳ざわり」を用いることには,慎重であった方が良さそうです。例えば,「聞いた感じが良い」ということを伝えたい場合には,文章であれば「耳触りが良い」と漢字を使ったり,会話では「耳当たりが良い」など別の表現を用いたりする方が誤解されにくいかもしれません。また,漱石がそう書いているとはいえ,「障り」の方を使って「耳障りが良い」と書くのは避けておくべきでしょう。


プラオレ!公式さん
ぜひ避けてくれると嬉しいです!

(類推に興味が湧いたらこんなのもどうぞ)

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