好きになる男全員鬱病
16歳の夏、付き合った部活の先輩は文武両道で顔とスタイルが良くて無口で、なのになぜか全然モテていなかった。リスカの跡があるからずっと長袖を着ていた。笑顔は弾けるようだったけど、学校では見たことがなかった。付き合って1年半くらい経った時、俺は中等度のうつ病らしいと言い始めた。よく心中を持ちかけられていたので何を今更と思ったし、だから何?と返したと思う。彼はどこにも出かけたがらなかったし、出かけたとしても直ぐにセックスをしたがった。出かけたくないのは、家だとセックスがしやすいからだった。
程なくして彼は私の10年来の友人と浮気し、挙句私を振った。
19歳の冬、大学で「怠惰な変人」というレッテルを貼られた同期とセフレになった。怠惰な変人というのは得てして妙にモテる傾向がある。そいつは風呂もない家に住んでいたくせに本棚の隅にメイク落としが常備されていた。
男の怠惰さにはADHD、変人さには躁鬱という病名がぴったりだった。
男は、変人(躁鬱)なので、電話の相手の姿を探してさまよったり、押し入れの中で生活したり、小指も通らないような狭く小さな隙間に身体を入れようとしたり、それが実現できなくて大泣きしたりしていた。私はそれを面白がっていた。ただ、鬱すぎてたまに言葉が通じなくなる時があったので、その時だけは県外まで連れ出してただ一緒にご飯を食べてカラオケでキスをした。そして、セックスをするようになった。セックスをした後、彼はいつも私とは違うタイプの可愛い女の子達の話をしていた。
ピロートークに登場するかわいい女の子の中の一人が男の彼女になった。私が連絡を取るのを辞めると、じきに躁鬱はマシになっていった。
大学3年生の夏、元ラグビー部の根っからのスポーツマンと付き合った。ある日二留が決まった彼は人並みに生きられない自分に失望し、自殺を企て、「俺が死ぬ前に別れてくれ」と電話をかけてきた。自分の怠惰のしわ寄せが結果になっただけなのにくだらねぇプライドによって生を諦めるなと説教をすると電話が切れた。結局7時間のドライブの後生きる方を選んだ彼はまた7時間ドライブして帰ってきた。これ以上ないくらいくだらなくて浅くて面白いと思った。この自殺未遂以降私を命の恩人と勘違いした彼は「愛してる」「結婚する」「幸せだ」が口癖になった。私が別れようと伝えたところ「人間のクズだ」「お前は一生幸せになれない」と罵倒の嵐を浴びせてきた。3ヶ月後に連絡が来て、セックスをしたが、セックスの仕方が何も変わっていなくて、セックスに愛の有無なんか関係無いのかもしれないと思った。
大学4年生の春、「付き合いたいくらい好きだよ」が口癖の一回り年上の男がいた。彼氏と別れそうな私にすっと近づき、キスをした。男は睡眠障害で鬱病だったので仕事を休業していた。つまり時間があった。彼氏と別れた私の暇つぶしによく付き合ってくれた。旅行にもいった。何度も何度も好きだと言い、夜には必ずナマでしたがる癖に、一貫して恋人という責任からは逃れようとする男を、気楽に思いながらも時折どうしようもなく気持ち悪く思った。他に好きな人出来たと振ると「ずっと俺の隣にいて」等と言い始めた。ニート中の彼にとって社会とのコネクトが私しかなかったせいだと思う。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?