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2歳児の購買意欲について


「オクラ行きたいな〜」
 というのは、ここ数ヶ月の我が子の口癖である。
 『オクラ』というのは彼女にとって野菜を指すものではなく、クラゲを指すものだ。
 つまり、「オクラ行きたいな〜」は「水族館に行きたいです」の意だ。
 
 朝早くに起きて言ってくれれば何とか突貫で葛西や押上まで足を伸ばすのだが、大抵昼に言われてしまって「ヒエ〜」となるパターンが非常に多く、親としてはその「ヒエ〜」をひた隠しにしながらいなしたいところなのだが、大体の場合は「ヒエ〜」から言い訳を始めてしまう。親として失点ポイント1だ。
 ドライブ狂の配偶者とは違い、私に都内を車で走れるスキルはない。駐車料金もバカ高い。でも、2歳児的には電車も片道30分が限界だし、私の体力も相変わらず塵のようなものなので、頻繁にワンオペ水族館が出来るかというとそうではない。
 何よりも、今年の6月からの、何というか、この、"死"みたいな季節がマジでヤバい。児童館では「今、公園とかみたいな外で遊ばせられないじゃないですか〜」がママたちのトレンドセンテンスになっている。

 加えて、オクラ=クラゲの各水族館の扱いというのも悩ましいところだ。
 クラゲといえば関東近郊ではえのすいが一番先に挙げられるだろうが、千葉県から、というところの食い合わせが悪く、着いた頃には早速全ての人間が疲れており、年パスは買ったもののあまり行けていない。
 葛西は交通の便が良く、価格も安いので個人的には推したいところだか、他の水族館のようにクラゲによる映えを意識した作りをしていないので、少し残念そうな顔をされるし、マジで館内を物凄いスピードで駆け抜けるだけの幼児が出来上がってしまう。
 クラゲ好き幼児ぶっ飛びゾーンことすみだ水族館だが、いかんせんデート向きなので館内が暗く、我が子を見失ったら終わりだ。個人的にはクラゲよりも幼児を光らせたい。あと館内が狭すぎる。全館飲食に寛容なので(それもどうなんだ)幼児連れとしてはそこは気が楽だが、幼児を追いかけカップルの間を謝りながら走っていかなければならない、母の、気持ち、何というか、こう、分かってくれ、どうか(ただ、ベビー休憩室、トイレの数が水族館の面積に対して十分すぎるので最高。どうなっちゃってんだよ)

 というわけで、クラゲ難民になりかけていた我々が白羽の矢を立てたのが、アクアワールド茨城県大洗水族館だ。
 今年の3月20日にクラゲ展示がリニューアルしたらしいと今更ながら聞きつけ、ええいダメで元々だ、とほとんど突貫で現地に向かった。
 本当にダメならばめんたいパークがある。科学館もある。まあ、35℃の外気で行きたかないが、最悪、ひたちなか海浜公園がある。

 結論、とても良かった。
 再入場までしたが、回りきれないところを残しての帰宅だった。
 まあ、遊園地なんかも1日で回れる割合を○割にした方がリピーターが上がるみたいなのもあるし、まあそんなもんかとも思う。
 クラゲの大水槽はミズクラゲのみ(小さな水槽にはさまざま小型のクラゲが展示してあるが小さいため、かなりの列が出来ていて、かつ子供には厳しい高さにあり、あまり覗けなかった)で、我々は娘の推しクラゲであると認識していたのだが、どうもそうではなかったらしい。ライトの色のグラデーションには興味を示していたが、割と「ふむふむ」程度のテンションでウォークスルーしていた。
 これもあくまで推測でしかないのだが、多分アカクラゲかパープルストライプドジェリーフィッシュが彼女の推しクラゲっぽい。えのすいと鴨シーの水槽に釘付けになるわけだ。

 館内がやや暑だったせいもあってか、不機嫌になりつつあった娘が行きたいと駄々をこねたのが、何故か開演まで30分以上待つはずのイルカアシカシアターだった。
 幼児を抱えての開演待ち、上手く行った試しがない。
 ここでもダメ元で前方の列に座ると、席に何か貼っていることに気がつく。
 そのステッカーが示すには、この席には水しぶきがかかるらしい。
「前(7〜8年前)来た時これ無かったよね」
「水飛沫かかるって鴨シー(シャチがありとあらゆる手を使って大量の水を浴びせてくる狂気のショーがある)で言うと何列目くらいだろう」
「水"しぶき"って言うくらいだからシャチ最後列くらいでは?」
 呑気な会話を交わす千葉県民をよそに周りがレジャーシート防衛勢で埋まってゆく。そんなに?
 募る不安をよそに、我が子は直前に得たイルカのぬいぐるみはずれナシくじ(水族館に最近よくある、水生生物のぬいぐるみのデカさがくじの結果によって変わるギャンブル性の低いぬいぐるみ)と「こんにちは」などと言葉を交わしながら大人しく30分を過ごしていた。本当に暑かっただけらしい。
 結果的に言うと、鴨シーのシャチ8〜10列目程度の水がかかって笑ってしまった。水しぶきとか言うなよ。過小評価だよ。普通に水だよ水。
「これくらいだったら館内回ってるうちに乾くだろ、ガハハ」
 などと小学生男児のようなことを言って笑っている親2人をよそに、
「やっだー、サンダル濡れちゃったよぉ」
 と口を尖らせて私のハンカチをぶん取ってサンダルを拭く2歳の方がよっぽど大人に見えた。
 いや、でもショー自体が本当に良かった。イルカの背中にアシカが乗ってプール一周サーフィンしてるの見た時は変なクスリキメたかと思った。

 我が家では、どこかに出かけた際、娘がねだったものを1個だけ買ってあげることにしている(こちらも心を鬼にしないと可愛くて無限に買ってしまうので)(それでも余分に与えてしまうのだが)
 娘がどうしてもとねだったのは、ピンクのイルカのイラストが入っているガラス玉風の小さなキーホルダーだった。
 クラゲが好きなはずだったので何でだろうと思いつつ、アクアワールドオリジナルのものだったので
「お目が高いね〜」
 などと言っていたが、帰路の車中で昼寝から覚めた彼女が
「イルカの、ピョーンって、バッシャーンの、ほしいの!」
 と手を伸ばしていたので前述のショー開演前に当てたイルカのぬいぐるみを差し出したが、違うのだと言う。
 ふと思い立って売店で買ったイルカの小さいキーホルダーを見せてみると、それだと言って、
「これ、イルカ、ピョーンでバッシャーンしてるの」
 と再度教えてくれた。
 なるほど、確かに丸っこく愛らしいフォルムのぬいぐるみと違い、キーホルダーのイルカはもう少し細身で弧を描いている。
 確かにピョーンバッシャーンしているのかもしれなかった。
 それで思い出したのだが、春先にマザー牧場に行った際も、何故?と言いたくなるような羊の写真入りの小さなキーホルダーをねだられて買ったことがあった。今でも主力級のおもちゃとして君臨するそれを「なんか気に入ったんだろうなあ」とぼんやり思っていたが、確かにその日、出産ラッシュだった生後数日の子羊をわんさか目にして、羊を牧羊犬を追い立てる『羊の大行進』というプログラムを鑑賞していたのだった。
 つまり、その日強く心に残ったものと関連が強いグッズをほしいと言っているのだと気がつくまでに2年3ヶ月も要してしまったのだ、という、親として情けない気付きを得てしまったのだ。
 我々が写真を撮ってSNSに投稿したり後から見返して楽しかったなあと思うように、彼女なりの写真の代替のような存在なのだろうか。
 しかし、それはそれで彼女はしっかりと「写真撮るー?」などと聞いてくるので、確固たる別の行為ではあるのだろう。
 その思い出の品をずっと手にして、日常的にその日を思い出しているのだろうか。
 だとしたらマジですごいな、っつうか早く気付けばよかったよ、それ。
 うーん、難しいな、子育てと相互理解。

……という、娘のお土産に対するエピソードと気付きを
「書いといてくれよ〜、Noteとかでいいからさ〜」
 と言ってきた配偶者ではあるのだが、後から知ったことだが、ヤツはヤツで私と娘が知らないタイミングで、メダル(日付けや文字を刻印出来るもの)を作っていたらしい。
「ねぇこれ見てよ〜どうしても欲しくなっちゃってさ〜」
 と彼がひっくり返したそのメダルの裏面には、イルカの背にアシカが乗っている、ショーの一場面で最高に盛り上がった場面のイラストがデザインされていた。
 いや、お前もなんかい。
 お前もそのタイプなんだわ。
 子供がしっかり背中を見て育ってるだけかい。

 久々に遺伝と環境に思いを馳せるなどしてしまった。

【子連れで行った所感】
・女子トイレに柵のしっかりあるタイプのベビーベッドあり(おむつ捨てるゴミ箱もある)男子トイレは不明
・mamaro2箇所(mamaro内ゴミ箱なし)
・その他授乳室あり、授乳室内にもベビーベッドがあるらしい。
・7階展望台まである。比較的全館スロープはあり、エレベーターも何機もありそうだが、階段、段差、エスカレーターが多い(エスカレーターでないと見られない大きめのサメ水槽がある)ベビーカーなしの方が回りやすいかも。
・駐車場の台数、入場者数に対して明らかに食べる場所が少なすぎる。だが、駐車場は無料+周囲に那珂湊、めんたいパーク、その他ガイドブックに載ってる名物店が多く、出て食べることを前提に作られているかも。年パスには近隣(車移動での近隣)のメヒコやココスなどの割引優待がついている。

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