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長野への戦略(…というほど大袈裟ではない)

1995年からのシニアのプログラムを追ってみていくと、イリヤ クーリックにとってラプソディ・イン・ブルーはわりと異質に見えることに気づきます。

彼のプログラムはとにかくスピード感満載でそれを活かす振り、そして何より高く美しい得意のジャンプをその流れの中で優雅に見せるものでした……って、確かにラプソディインブルーもそうなのですが、音の取り方、合わせ方が、何よりイメージが、全然違う。
実はスピードが凄いのに、それを感じさせないプログラムになっていました(普通、感じさせたほうがいいよなぁ…)

SPのRevolutionも曲こそ近未来だけど、振り自体はこれまでのクーリック、という感じ。つなぎと上下運動も含まれたタフネスさが要求されるプログラム。いや、でもファウストと比べるとかなり余裕はあったように思われます。これはもしかして魔の1996-1997シーズンを乗り越えた証なのでしょうか。

多分、クーリックの一番有名なプログラムはラプソディインブルーだと思うのですが、はっきり言って良くも悪くもこれまでのクーリックらしくないプログラムでした。代名詞なんだけど、実は、っぽくない。
けれど、彼にしかない美点が詰め込まれている、そんな作品。彼以外にこのプログラムははまらない。他のスケーターではあのようにジャンプ技術の高さを見せつけながら、コケティッシュで美しい余韻を残すプログラムには成り得ません。
…の一方で、これで留まらないだろうという伸び代さえ感じられるものでした。

プログラムを一通り見たからこその感想です。
長野への賭けとも言えたかもしれません。
タラソワさん、明らかにこの次を見てる。これで終わらせないだろう感があるんですよね。
ラプソディ・イン・ブルーは前年の鬼プロとは別の意味で高度かつ、実は難解なプログラムなのでした。ロミジュリは難しさがわかりやすかった。ラプソディin Bはわかりにくい難しさがあった。

当時のライバル達とお互いベストパフォーマンスでぶつかったとして、その構成上、ガチンコになるのはストイコであったと思います。他にも4回転を跳べる人はいましたが、安定感に欠けるか、プレゼンテーションがイマイチだった。
基本的には同じことをすれば、芸術性に長けたイリヤが盤石でした。
問題はストイコが4-3を飛んできた時、イリヤの単独4Tでは少し分が悪い。ジャンプの美しさという点では圧倒的にイリヤですが(ストイコ、、ごめん)、今にみたいに加点方式ではないから、少なくともテクニカルメリットでの勝負は厳しくなるでしょう。

プレゼンテーションはイリヤが強かった。ジャンプの難度が同じであれば、明らかにイリヤに分がある状況だった。何なら仮に4-3と4Tの勝負になったとしても、実のところはそれを補って余るほどのプレゼン評価も期待できた。だから無理して4-3は試すほどではなかったと思う。何よりこのオリンピックシーズン、イリヤは常にケガに悩まされています。
どの大会だったか…、いや、ボイタノかカートさん、ハルミトンさんあたりのインタビューだったかもしれないけど、イリヤはジャッジに愛されている的な発言もあった。皮肉じゃなくって、まぁ、これは要するに正統派な演技が好まれる…という意であったと思うんだけど。いやいや、ドイツとか、カナダだったか、イギリスかUSAだったか、お国的な問題なのか、国によってやたらとあからさまに低くつけてたジャッジもいたような…5.9が並ぶ中で5.6とかね……気はしますが…。
ま、それは置いておいて、バレエ的な表現を武器にしていないストイコは不利だったということか…。でも彼のプレゼン点が低いと思ったことはそれほど無い。評価されていたと思います。結局はジャンプ連動だと思うのですよ。ストイコはジャンプのミスがあってもテクニカルは安定してた。それにつられて程々の適当な芸術点がもらえていたと思う。

一方のイリヤはちょっと芸術点高くない?…と思ったことあるけど、こっちはなぜかテクニカルが抑えられているように感じられることが多く、プレゼンで上回らせてその調整?と思えるようなこともあったり。。彼の場合はジャンプのミスが(わずかなミス)があったくらいじゃプレゼン…は揺らがないという。。いつの時代もジャッジはよーわからん。

結局のところ不安定なところはあるけれども(何度も言いますが、1996-97のプロが鬼過ぎだったのです。特にLP)ジャンプも表現もバランスがとても優れているというトータルパッケージなイメージが2年間で出来上がっていたイリヤ。ストイコと比較された場合、ジャッジの評価としてテクニカルはストイコに傾きがちであった、ただこの一点が懸念であった…と思うのです。

あのゆったり(として見える)ラプソディインブルーは最大の壁となるだろうストイコとの違いを際立たせるためかなとも思われました。
そして、流石のストイコも4回転は万全、というわけではありませんでした。グランプリシリーズ(その頃はチャレンジャーシリーズ?とか呼ばれていた)の初戦、カナダ大会ではストイコが勝ち、グランプリシリーズのファイナルはイリヤが勝った。ファイナルはどちらも4回転に挑戦して、イリヤに軍配が上がったのでした。

長野でのSPが終わった時、4回転を跳ぶかは決めていないとイリヤは言った。もし滑走順が違っていたら、跳ばなかったかもしれませんね。そして、跳ばなくてもむしろもっと点数高かったかもしれませんね。最終グループ1番滑走のため、あれだけの完璧な演技ながら、点数は抑え気味でした。しかしながら滑走順含めての結果なので、たられば言い出したらキリがありません。
イリヤも1番滑走で少し落ち込んだが、6分間練習の後すぐに滑ることができ、気持ちのコントロール的にも良いのだと思うことにしたと言ってましたね。
ゴルデーワも言ってました。オリンピックは頭=メンタルで闘うのだと。

ストイコはストイコで、前シーズンのドラゴンハート?というプログラムが評判よかったらしく、それを嘆いたファンもいたようです。でもストイコ側にもオリンピックシーズンとしての戦略があったはず。
イリヤも前年、キツすぎない?と散々言われながら、いざオリンピックシーズンのプログラムを披露したら、前のプログラムの方が良かったよね…と言われたりした。ファンは勝手です。私も勝手にこれ書いてます。

みんな当然オリンピックを念頭において、セットで練ってきているのだと思います。それが結果として裏目に出ることだってある。やはり前シーズンのプログラムと比較すると面白い。今期のワリエワちゃんみたいに練り上げて同じプログラムを使うこともありますね。

勝つためのプログラムというのはやはり存在するのだろうなと。それに運がデコレーションされていき、勝利が導かれるのだと…。こればっかりは終わってみないとわからない。所詮マーケティングと同じく結果論なのです。

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