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てんぐのノイエ銀英伝語り:第37話 要塞対要塞 AktIV 決着~ラストラウンドでの激突はプロとプロの矜持とスキル

 劇場公開時には第4シーズン「策謀」編の最初のエピソードとなった第37話ですが、今回はむしろ第3シーズンのラストラウンドといった趣きでした。


撃墜王ケンプ最後のフライト

 ガイエスブルグをイゼルローン要塞に突入させる。
 この決断に至ったとき、歴代のケンプに対しては「ついにイカれたか、このおっさん!」と毎回感じておりました。
 でもノイエでは、それまでの表情の険しさがスッと抜けて、極めて冷静な雰囲気を出してました。そういえば、原作でも実はそんな描写だったっけなあ。
 多分なんですが、ケンプはかなり早い段階で「要塞に要塞をぶつける」というプラン自体は思いついてはいそうです。ただ、「やっても良いけど、これまで掛けたコストの元が取れんだろ」「そもそも回廊から要塞がなくなって、どうやってこの宙域を保持するんだよ、別の要塞持ってくるにしてもまたコスト掛かるし」という常識的な判断から、この最終局面まで禁じ手としてたんでしょう。
 もっとも、オーディンのラインハルトからしたら、「そこで、別の要塞を持ってくるコストを掛けてでも回廊奪還による戦略的な優位性を回復する価値はある、って自発的にプレゼンしてこい!」というところなんでしょうが。

 では、なぜケンプはその禁じ手を打ったのか。
 その回答は、今週のノイエ公式アカウントの用語解説、「殿」としてではないでしょうか。

 こんな移動要塞がまっすぐイゼルローン要塞に向かって突進してくれば、ヤン艦隊と言えども撤退する帝国艦隊に対して追撃するどころではなくなります。
 つまり、ミュラーに託した艦隊が安全圏に逃れるまでの時間は稼げます。自らその役割を担うのも、敗軍の主将としてのケジメだと考えればサッパリとします。
 多くの人が指摘してますが、ファーストガンダムのドズル・ザビ中将も連想しますね。
 旧イゼルローン要塞駐留艦隊司令のゼークト大将が喚いていた総員玉砕宣言とは全く違う、本物の「武人の誇り」がここにはあります。

 そして、要塞クルー全員の退避を確認の後、「俺の最後の搭乗機はこのデカブツか」「豪快で良いな」くらいに考えてそうな、ガイエスブルグ操縦シートに座るその姿は、往年の撃墜王ケンプがどんなものだったかを想像させるに充分なものでした。
 そして、その後のヤン艦隊の砲撃による通常航行用エンジンの破壊で重心点を狂わされてのスピンアウト状態から機体の制御を取り戻したときなんか、劇場で「嘘だろ、おい!」と叫びそうになりました。
 考えてみれば、単座式戦闘艇って、どこかのスラスターが故障したってその場で修理できない。だから、生きてるスラスターの推力を調整して持ち直すしかない。そして、それができるのがプロの戦闘艇乗りってもんです。
 これまでケンプの「もとワルキューレ乗り」という設定は、原作を含めて死に設定となっていました。
 でも、メカの設定と考察に長けたスタッフの集ったノイエ版で、ついにその設定を活かす機会をケンプは得ました。
 ついに敗れはしましたが、今までで一番カッコ良いケンプでしたね。

ヤン艦隊のプロフェッショナル交響曲

 今週のもうひとつの用語解説は「狙点」でしたが、これを正確に定めた一点集中砲火はヤン艦隊の必殺技のひとつとして銀河に知られています。ちなみに最高の必殺技は「逃げるふり」。これを最も得意とするのがアッテンボローです。

 で、この「狙点」を定め砲撃の密度と精度を高めるのって、フィッシャー副司令が担当する艦隊運用の範疇なんだろうなとは考えていました。
 それ自体は間違っていませんでしたが、そのフィッシャーからの通達に基づいたコマンドを各艦のオペレーターがそれぞれ同時に発していく、その声が環境音のようになっていく。この演出は、あえて例えるなら交響曲。まさにプロフェッショナル集団だけが奏でられる交響曲でした

 魔術師ヤンは間違いなく名将で英雄です。しかし、その英雄の指示だけが魔法のように戦果を挙げられるわけでは決してない。このプロフェッショナル集団がいるから、それは実現できます。
 そしてヤンは、そんなプロフェッショナルたちだと信じてクルーを集めてた、そんな信頼感があった……はずなんでしょうがねえ。

魔術師ヤン、痛恨の統率ミス! グエン、アラルコン! 我が艦隊を返せ!

 ヤンって鷹揚すぎるくらい大らかに見えて、部下の手綱を取りそこなうことは滅多にないです。でも、グエン艦隊とアラルコン艦隊の独走は、その滅多にないヤンの統率ミスでした。
 なんでこんなことをやらせてしまったのか、原因はガイエスブルグ突入ってことになりそうです。
 ガイエスブルグへの対処と要塞爆発によるデブリの発生、それらでてんてこ舞いになっている間に、どちらも実は物騒なくらいの武闘派であるグエン艦隊とアラルコン艦隊への停止命令を出し忘れた、あるいは「私がいちいち指示を出さなくても馬鹿な真似はしないだろう」と気を抜いてしまった、そんなところではないでしょうか。
 ちなみに、アラルコンがどんな指揮官かというと、こんな人です。

 あの救国軍事会議メンバーからも嫌われてたって、アラルコンはどんだけヤバいおっさんだったんだ。というか、これこそ厳重に手綱引いてなきゃダメでしょ。
 アラルコン艦隊が突出しちゃって、グエン艦隊も放置できないってことで、結果的に二人仲良く独走ってところでしょうか

 いずれにしても、突出したふたつの分艦隊を待ち受けていたのは、帝国軍最強の提督に指揮された最強のクルーたちで構成された双璧艦隊。言うまでもなく瞬殺です。

 そして、ここからが肝心なんですが、このグエンとアラルコンのやらかしは、同盟軍全保有艦艇を母数とした損失の割合という点で、常設艦隊の16%を失ったアスターテ会戦のそれに相当します
 しかも、この時期の同盟軍の回復能力はアスターテ会戦時と比較して激減してますし、もっと言ったら本国が補充戦力を送ってくれる可能性はゼロに近いです。これはまあ、ヤンが査問会でトリューニヒト政権に対して喧嘩を売ってくれたせいでもあるんですが。

 戦死したふたりの提督に対して薄情なくらい冷静に双璧の手腕を称えたヤンですが、「本音をブチ撒けてください」って言ったら、トイトブルグの敗戦を聞いたアウグストゥスよろしく「グエン、アラルコン、我が艦隊を返せ!」と叫び出しそうです。

今週の中の人々

 サンファン4期1話の感想でもちょっと書きましたが、すっかり大人物の雰囲気が出てきちゃった捲ちゃんですが、鈴村社長のこの演技って、割とヤン・ウェンリー役の影響もあったのかなって感じもします。
 というか、4期1話での殤ニキとの酒席って、中の人的にはヤンとオーベルシュタインの会談ってことになるのか
 というか、あの二人が酒飲んだらどんなことになるんだろう。50%の確率で変に意気投合しちゃうか、もう50%の確率で自分のキャラクター崩壊レベルの大乱闘になるかでしょうか。

 あと、「結局この戦役ってヤンに名を成さしめただけか」と総括したミッターマイヤーの締めのセリフ、「やれやれだ」って、あの小野Dボイスでそんなセリフ聞いたら13日戦争以前の地球にいたという最強スタンド使いを連想しちゃいますよね。

 そういえば、小野Dがミッターマイヤー役って聞いたときは、「疾風を通り越して時間を停止させそう」とか考えたもんでした。懐かしいなあ。

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