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てんぐのノイエ銀英伝語り:第27話嵐の夜〜嵐が明けて、虹が天を貫く


献身的な男、ノイエ版ロイエンタール

 はい、今週もてんぐのノイエ銀英伝語りの記事であります。
 前回は主にミッターマイヤー夫婦に注目して見ていましたが、今回注目していたのはロイエンタールの方でした。
 親友の危機を救うために、知己どころか面識すらないしそもそもどんな野望を持ってるのかもわからない相手であるラインハルトの下宿に押しかけて、自分たちの忠誠を言わば売り込みにいく姿を見てると、誰よりも健気というか献身的な人物に見えてきます。
 思うに、ノイエ版のロイエンタールの本質って、こういうところにあるんじゃないかな。ただ、自分がそんな風に見られることに対しては変なプライドが邪魔をするのか、獄中のミッターマイヤーに対しては妙にスカした態度を取ってました
 将として智勇兼備のマルチタレントのロイエンタールですが、個人としてはひどく不器用な男なんですよ。なのでそのヘテロクロミアを見ても、あまり「妖しい」、あるいは「怖い」という印象は抱けないんですよね。
 むしろ、「怖い」というなら獄中にいても手枷を掛けられていてもごく自然体で、食事を残しても「太ると女房に嫌われる」と配膳係にニコニコ笑いながら応えられるミッターマイヤーの平常心の方が空恐ろしいくらいでした。

ロイエンタール訪問に見られるノイエ銀英伝の演出の細かさ

 嵐の夜にヘテロクロミアの瞳を光らせた若き名将ロイエンタールが、友の命乞いのために、雨に濡れた姿で訪れる。
 大変絵になるシーンではありますが、「そもそもこの人、なんで雨合羽姿で来てるの? 車で来れば良いのに」という疑問を抱く人もいるでしょう。
 それはごもっともな話なんですが、この場合はこれで正解なんです。
 自分たちの面子に泥を塗ったミッターマイヤーを抹殺したいと考えるブラウンシュヴァイク公やフレーゲル男爵からしたら、自分にも監視の目を光らせ可能であれば暗殺を仕掛けてくる。少なくともロイエンタールの方ではそう判断するでしょう。
 となると、地上車での移動などは「事故に見せかけて謀殺してくれ」と言ってるようなものです。

 これは外伝1巻の話で、クロプシュトック事件の少し後になりますが、オペラを観劇した後のアンネローゼ様が友人と地上車で帰宅中に、皇帝フリードリヒ4世の寵愛を奪われたと妬んだ寵姫の手配した刺客から対戦車ライフルで狙撃されるってとんでもない事件も起こってます。
 これはまあ特殊すぎる事例ではあります。これが日常茶飯事なら帝都オーディンの治安はサイバーパンク2077のナイトシティ水準ってことになりかねません。物騒極まりない。

 ですが、いつ誰が狙ってくるかわからないときに一番安心できる移動手段は、個人の地上車や公共交通機関などではなく、徒歩ってことになるんでしょう。

 また、この段階で自分がラインハルトと接触していること自体は伏せておきたいはずです。
 双璧と一面識もなく事件関係者に対する利害関係が立証できないことが、弁護人としてのラインハルトの存在価値を高めることになりますし、あるいはミッターマイヤーに降りかかる危機を払うための実力行使を不意打ちで行うこともできます。
 実際、下宿のドアから外に出たロイエンタールが、左右に目を配ってました。あれは、撒いたと思った監視者が本当にいないかどうかを確認したかったのでしょう。
 そして、その光景を窓から見たラインハルトとキルヒアイスは、ロイエンタールの才覚のほどを早速確認できたわけです。

 それやこれやを考えると、ロイエンタールが雨合羽で顔を隠し徒歩で下宿を訪問するという演出プランは実に理に適ったものだったと言えますね。

 ……まあ、「実は地上車で来てたけど最寄りの駐車場が恐ろしく遠かっただけ」って可能性もありますが。

行った行った、ウォルフがいったー!

 今週のハイライトであるテキサスブロンコもとい疾風ウォルフの獄中デスマッチですが、いやあ実に強いです。フレーゲルへ手錠で天井から釣られた状態で頭突き決めたときは「行った行った、ウォルフがいったー!」ってテンションが上がりましたよ。
 ノイエのフレーゲルはミッターマイヤーの釣り手錠も外さないようなチキンでしたが、そうでなければロイエンタールが言うように蹴り飛ばすというか、カーフ・ブランディングを決めてくれたことでしょう。

 ……えー、てんぐはノイエ銀英伝の他に、キン肉マン完璧超人始祖編も応援しております。というわけで、近々始まるテリーマンvsマックス・ラジアル戦の熱血ファイトをお楽しみください。

ラインハルトよ、なぜアンスバッハ准将を忘れてしまったのか

 牢獄での不祥事を己の一存で収拾して、そんな自らを何ひとつ誇示するところのなかったアンスバッハ准将。
 それを見て、名前を聞き、「ブラウンシュヴァイク公には惜しい男だ」と正しい評価も下していながら、よりによって何故あのガイエスブルグ攻略後の引見式のタイミングで彼がどれだけの男だったかをラインハルトは忘れてしまったのか
 やはりあの時のラインハルトには、勝利と権力がもたらした毒がもう回っていて、それが目を曇らせてしまったんでしょうが、その代償はあまりにも大きかったと言わざるを得ませんね。

軍政の長老エーレンベルク軍務尚書と堂々たる中間管理職ミュッケンベルガー司令長官

 クロプシュトック事件に端を発した一連の騒動に対する最終裁定を下したのが、当時の軍務尚書だったエーレンベルク元帥です。

 ちなみに、リップシュタット戦役の引き金になったラインハルト派によるクーデターで軍務省を制圧し元帥を拘束したビッテンフェルトとは、半世紀の年齢差があるとか。つまり、御年80歳前後
 この軍政の長老が下した裁定をわかりやすくまとめると、「双璧とミッターマイヤーに射殺された貴族士官の兄貴、ついでにラインハルトとフレーゲル男爵といった事件関係者全員を艦隊戦の最前線に放り出して、生き残ったもの勝ちってことにしちゃえ」でした。
 そして、そんな誰が戦死したって権門か皇帝の不興を買うのが避けられない、ありったけの爆弾を詰め込んだような貧乏くじを押し付けられたのが、当時既に宇宙艦隊司令長官だったミュッケンベルガー元帥。
 この人ねえ、実に堂々たる人ではあるんですが、ラインハルトに言わせると「堂々たるだけ」。実際、「フリードリヒ4世陛下即位30周年記念攻勢やるから」とかいうふざけた理由での作戦を実施する羽目になったことがあります。
 宇宙艦隊司令長官って、結局は中間管理職なんでしょうなあ。

雨上がりの虹が意味するものとは

 嵐の夜の追憶を終えた双璧の頭上に広がったのは、雨上がりの青空に掛かる虹。
 一見すると綺麗で心和む光景ではあるんですが、古典に通じた人からは、「これって白虹貫日じゃないか?」と慄然とした反応もありました。

 その後に始まったのはラインハルト軍団の第二次拡張となる元帥府新規メンバーのお披露目でしたし、まさに空前の兵乱が目前に迫っていることを天は、あるいは銀河は示していたのでしょうか。

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