パラアルコホリズムについてもう少し
以前の記事に、アルコホーリクの持つ自己中心性=ACの持つパラアルコホリズム=共依存 であると述べました。
ACoAのBRB(ビッグ・レッド・ブック)は、パラアルコホリズムとは何かを端的に説明しています。BRBの「ランドリーリスト」の一覧のなかに、パラアルコホーリックという言葉が登場しますが、その言葉には脚注がつけられています。
だがなぜか、今回出版されたBRB日本語版のオンライン版では、この脚注のが欠落しています(よく見たらちゃんとありました。Kindleの操作を知らずに見落としたようです)。その脚注と拙訳を示します:
ちなみに、似たような説明が1994年にWHOが出版した Lexicon of alcohol and drug terms (アルコール・ドラッグ用語集)にも掲載されています。
つまり、1970年代に、アルコホーリックと一緒に暮らす家族(配偶者・子どもなど)が示すある種の特徴に para-alcoholism(パラアルコホリズム)や co-alcoholism(コアルコホリズム)という名称が付けられました。paraは「疑似」とでもいう意味で、coは後に「共」という訳が与えられます。
アルコホーリックと一緒に暮らすことで、家族も擬似的にアルコホーリックになってしまうと考えたわけです。家族が飲んだくれになるわけじゃありませんが、アルコホーリックが――酒を飲んでいようといまいと――持っているある種の特徴を、家族も身に付けるわけです。
それまでのアルコホリズムの家族論は、あらかじめそのような特徴を持っている女性が、アルコホーリックの男性を夫に選ぶために、そういう夫婦ができあがると唱えていました。
そうではなく、普通の女性がアルコホーリックである夫と暮らした結果として、アルコホーリクの特徴を身に付けたという考えが、パラアルコホリズムという名称を産み出しました(普通の男性がアルコホーリックの女性と、でも同じ)。
パラアルコホリズム/コアルコホリズムになった家族は、パラアルコホーリック/コアルコホーリックと呼ばれることになりました。
そして、パラアルコホリズム/コアルコホリズムという概念は、アルコールの問題だけでなく、薬物などのアディクション全体へと広げられました。ならば、パラアディクションとかコアディクションと呼ばれるようになったか、というと、そうなりませんでした。
1970年代から80年代は、アルコホリズム(アルコール中毒)/アディクション(薬物嗜癖)という言葉が、依存症(dependency・デペンデンシ-)という言葉に置き換えられつつあった時代でした。結果として co-alcoholism という言葉も、co-dependency へと変えられました。これを日本語に訳したのが共依存症という言葉です。
その後は、共依存症という用語は家族支援の現場で使われるだけでなく、社会学者によって社会全体の問題として取り上げられるようにもなりました。(e.g. アン・ウィルソン・シェフ『嗜癖する時代』)。それまであった依存症の家族グループ(アラノンなど)とは別に、依存症とは関わりなくそうした特徴を身に付けた人たちのためのグループも誕生しました(CoDA)。
このような経過のなかで、何十年と経つうちに、ACの問題=共依存であることが意識されなくなってきているのかもしれません。
しかし、この共通性を理解すれば、酒をやめただけのアルコホーリックが回復するためのプログラム(12ステップ)が、なぜ家族(配偶者や子どもたち)の回復にも役に立つのか。なぜグループが違えども共通の12ステップを用いているのかが分かります。つまり、表面的な違いが大きく見えても、問題の本質は同じだからです。
だから、アルコホーリクの持つ自己中心性=ACの持つパラアルコホリズム=共依存 という図式を掴んでおくことは大事なのです。
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