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絵は描かない間に上手くなる

去年から「さくらいろプリズム」という恋愛ゲームを作っていて、最近はゲーム中のイラストを描き進めています。ただ、ここ2週間ほど別件で脚本を書いていて、その間イラストは完全に放置していました。

というわけで、2週間ぶりに再びイラストに着手したわけですが、なんというか、「見える」ようになっている。

2週間前には変だと思わなかったところが見えるようになっていたり、逆に今まで気づいていなかった自分の絵の良さが見えるようになっていたり。で、気づいたところを直してみると、絵がぐっと良くなる。特に何か練習やインプットをしたわけでもないのに、少し目が肥えたような気がする。イラストを描かれている方だと結構共感していただけるのでは、と思います。

実はこの辺の主張は、さいとうなおき先生がすでに動画で何度か言及されています。

もう、サムネに思いっきり「描くな」って書いてありますね。この動画に限りませんが、すごく気持ちが楽になることを仰っているのでぜひ見てみてください。

さて、話を戻して、2週間イラストを描かずに文章だけ書いていたのにもかかわらず、なぜ絵が上達したような気がするのか。それはおそらく「世界との接点が増えた」からだと思っています。

私は文章があまり得意ではありません。このnoteも、文章の練習になればいいやくらいの気持ちで、あまり難しく考えず書くようにしています。そうなると、脚本を書く作業は私にとってまあまあ苦行です。言葉のリズムが悪いとか、重複を削ろうとか、もっとシンプルな言い回しにしたいとか、そういう文法的なところに始まり、キャラクターの設定をどうしようとか、こいつ喋り過ぎじゃない?とか、キャラクターや物語の内面に至るまで、とにかくいろんなことに積極的に意識を向けながら書かなければなりません。そういう不慣れもあってか、執筆期間中は頭が疲れて、毎日8時間は寝ていました。

思い返してみると、脚本を書いていた間、イラストを描くときとは違うことを考えていたように思います。当然かと思われるかもしれませんが、例えば、あるキャラクターのエピソードを書くとき、キャラの名前は?年齢は?髪の長さは?性別は?性格は?このへんはキャライラストを描くときに意識される方は多いと思います。でも、脚本となると、さらに、家族構成は?部活は?友達は?通学手段は?将来の夢は?悩みは?口癖は?運動は得意?趣味は?恋人は?などなど、おそらくは、絵を描くとき以上にキャラクターを掘り下げて考える必要があると思います。もちろん、こういう奥行きのあるキャラクター性が魅力のイラストレーターさんもいらっしゃいますが、脚本の場合はここに時系列が加わるので、キャラクターを囲む環境も含めた時系列の変遷、すなわち物語の進行にまで気を配る必要があります。そうなると、考えなければならないことのベクトルが強制的に別の方向を向かされることになります。

さらに、例えば、筆が進まないからどこかのカフェで続きを書きたいと思ったとしましょう。駅へ向かう最中に人とすれ違って、電車におじさんや女子高生がいて、カフェがまあまあ混んでいたため席の確保に苦戦して、新作のフラペチーノを頼んで、飲んでみたら美味しくて10分くらいで飲みきってしまって、飲み物無しで居座るのも気まずいから結局1時間と経たずに帰る、というような経験、一度はあるのではないでしょうか。ここで、イラストを描かれる方なら、おそらくこういう様々な事象を「実物を見る練習」「デッサンの練習」として活用されることも少なくないと思います。これはいろんなイラストレーターの方が仰っていることで、実物をよく観察して描こう、という、まさにその練習です。

しかし、イラストを離れて脚本に専念していると、少し風景が変わってきます。このおじさん、狭い歩道でど真ん中歩いているな。電車が少し遅れているけどみんなスマホ見てるし気にしてなさそうだな。電車、うるさいな。カフェで勉強する人多いな、勉強熱心だな。サラリーマンっぽい人だけど資格の勉強してるのかな。会社休みなのかな、それとも個人事業主なのかな。でもそしたら別に資格はいらないか。後ろで女子高生が何か話してるな。なんか登場人物多いな。友達、反応に困ってそうだな。もしかしたら中学生かな。なんか気まずいな。そろそろ帰りそうだな。あ、帰ったな。

イラストは視覚に訴えるメディアなので、実戦でも練習でもインプットでも「目」を一番に頼ります。でも、一旦イラストをお休みして脚本を書いていると、「目」だけでは見えないものを頭が勝手に見ようとする。イラストという覗き穴からだけでは見えない側面に気づくことができる。これが、描かない間に勝手に絵が上手くなる理由だと思っています。

シンプルに言えば「絵は一晩寝かせろ」というのと本質は一緒です。ずっと同じ絵を見ていると違和感に気づきにくくなるから、まずは寝ろと。そういう意味で、私がやったのは「絵は2週間寝かせろ」だったとも言えるでしょう。寝かせている間に別のことをしてみる。あーだこーだ悩み考えてみる。たまにカフェとかに行ってみる。そうやって、イラストを描くときにはしないようなことをあえてやってみることで、世界が少しだけ違う角度から見えるようになって、世界との接点が増えるようになる。そうすることで、今まで描きたくても上手く描けなかったものが、実はこういう側面もあったんだ、こういうものと関係があったんだと気づくことができる。「描かない間に上手くなる」というのはこういうことなんじゃないかなと思います。

最後に、このnoteでも何度か挙げさせていただいているイラストレーターの吉田誠治先生は、配信で「回り道をしよう」という主旨の発言をよくされています。私は先生のこの考え方がとても好きです。今はたぶん絶賛回り道の最中なのでこれでいいのかなぁという不安は正直ありますが、でも逆に、回り道してよかったなと思えることも少しずつ増えてきました。イラストをお休みして、2週間、ちょっぴり苦手だけど脚本を書いてみる。たったそれだけですが、チャレンジしてよかったなと思っています。

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