【勝手にラジオ番組レビュー(1)】松岡茉優マチネの前に(無料で最後まで読めます)

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(画像は番組サイトから)

URL:https://www.tbsradio.jp/mmmm/
毎週日曜日12:00〜12:30 / TBS ラジオ

 2020年のコロナ禍は、ラジオ業界にも大きな影響を与えた。NHKではタレントが放送局に入れない期間もあり、その間は多くの番組が休止になり、タレントは全てリモートでの出演になった。民放では、全ての出演者がリモートで生出演し、ブースの中に誰もいないという恐ろしい生放送も存在した(自然災害や通信回線のトラブルがあったときはどうするつもりだったのだろう?)。ラジオスタジオのブースにはアクリル板が配置され、その後も多くの出演者がリモート出演になり、スタジオの扉は開放された。
 そんな真っただ中で迎えた4月、新番組『松岡茉優 マチネの前に』は、次のようなキャッチコピーでスタートした。〝日曜のお昼は、仕事も家事も学校も日常の忙しさをちょっと忘れて、自由な時間を過ごしたい。そう思っているあなた! 爽快かつ、ゆったりとした空気感が漂う松岡茉優の「楽屋」で、ちょっとひと息つきませんか〟。しかし、「楽屋」という設定でスタートしたこの番組は、第2回の放送から自宅にレコーダーを持ち込んでの「おうち収録」となり、いつしかキャッチコピーも〝爽快でゆったりとした空気感漂う松岡茉優の「おうち」で、ちょっとひと息つきませんか?〟と変わっていた。第2回以降の放送は、ほぼ毎週、松岡茉優の自宅で収録されており、スタジオでの収録を行ったのは映画監督・行定勲をゲストに迎えたときだけであったと記憶している。(ちなみに親友である俳優・伊藤沙莉のゲスト収録は松岡の自宅でおこなった)
 松岡茉優は、俳優・声優・タレントとして確固たる地位を保ちながら、文化放送でのレギュラー番組、オールナイトニッポンの単発での生放送、J-WAVE『AVARON』での1年間の深夜生放送を経て、ラジオパーソナリティーとしての才能を開花させた。そして、奇しくもコロナ禍の中でスタートしたこの番組は「おうちラジオ」という新しいジャンルを作り出した。これまで、多くのラジオ番組が「スタジオを飛び出して……」という使い古された(陳腐な)言葉で、テレビ局の楽屋、ツアー先のホテル、ときにはリスナーの自宅など、スタジオ以外からの放送を行ってきたことはあったが、「おうちラジオ」として定着した番組はこれが初めてではないだろうか? ときにはキッチンの前で料理をしながら、ときにはリビングの真ん中で、録音機が1台あれば、そこが彼女の「ラジオの舞台」になることをこの番組は証明してくれた。
 そう、彼女の目の前には、いつもリスナーがちゃんと存在している。自分でしゃべりながら、瞬時にリスナーの立場となってリアクションを挟み込み、自分のペースで次々に話題を変えていく。ひとり語りなのに、まったく飽きるところがない。だからこそ、場所を選ばずに「自分だけのラジオ」を届けることができているのだろう。
 筆者がラジオ番組のディレクションをするとき、初めてマイクの前に座る新人パーソナリティーには、必ずこんな話をしている。「このマイクに向かってしゃべったことばは、マイクのケーブルから向こうの部屋にあるミキサー卓を通って、放送局の送信所から電波となって送信される。その電波は、そのまま部屋の中や車の中、オフィスやお店のラジオで受信されて、スピーカーやイヤフォンから流れてくる。今話したことば、今かけた音楽が、そのまま遠くにいるたくさんの人の耳に直接届いている。それって、ものすごく素敵なことだと思わない?」と。
 筆者自身は、自分の担当番組に一度だけゲストで迎えたことがあるだけなのだが、松岡茉優はそのときから、気持ちはいつも〝目の前のリスナー〟に向いていた。だからこそ『松岡茉優 マチネの前に』には、まるでリスナーを自宅に迎え入れているような空間が生まれているのだろう。松岡は、自分とレコーダーとの距離や角度にも気を使って、リスナーとの距離感までを細かく演出している。番組スタッフの影がまったく感じられないのも、丁寧な演出・編集の成果だろう。
 願わくば、この「おうちラジオ」を継続したまま、彼女には2時間くらいの深夜ラジオの生放送をやってほしい。伊集院光が「自分のあとの『JUNK』を松岡茉優に任せたい」と語ったほどの実力とポテンシャルは、このままにしておくにはもったいなさすぎる。

このような番組レビューを8本、三才ブックスから発売中の『必聴ラジオ2021』に僭越ながら掲載させていただいております。もっともっと読み応えのあるレビューもたくさん載っているので、よろしかったらお手にとってみてくださいませ。

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