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これも「読み」ですか? 2

現代川柳の「読み」文章、第2弾です。

前回に続き、海馬さん主催の zoomを使った読みバトルイベント「即席川柳合わせ」で取り上げられた句を孫引きスタンスで取り上げます。ややこしいですが、前回取り上げたのが「第二回」で、今回取り上げるのが「第一回」です。海馬さんによるふりかえり記事ではバトルの音声も聴けますよ~

では、やっていきます。一気に8句いきます。

【1】

餃子パーティー、ぎょざパ、ぎょパ、パ
/雨月茄子春

■折りたたまれていく「餃子パーティー」を折りたたまれていく餃子の皮にダブらせて読むのも楽しいが、そもそもたたまれる《前》と《後》が1句の中にリズミカルに収まるさまに、短詩型文芸の圧縮性というか可搬性というか餃子性を見た。

【2】

人一人の胸像降ろして来る ラッシュの階段
/細田洋二

■ラッシュに揉まれながら自分自身の重い身体=胸像を運ぶとき、人は悲哀の運送業者となる。いったん降ろした胸像はふたたび持ち上げられねばならないが、それを書いた川柳が作られたことはない。そう確信できるほど、業者もわたしも疲れている。

【3】

チューリップ傾いている風の線
/笠川嘉一
チューリップ畑が一様に傾き、風の流れが線となって見える。山の稜線のような、人間にだけ知覚できる線か。自分自身の持つチューリップのイメージが貧弱すぎてオランダのことばかり頭に浮かび、そのとき「風の線」の一端は風車に絡まっている。

【4】

くっつきにくい首だね 坊や
/榊陽子
人形の胴体に首を付ける内職をして母はわたしたちを育てた。生活は貧しく殺伐としており、泣きわめくわたしの首をもいで、人形のそれに付け替えてしまおうと思った、と母はおどけて笑った。首をさするとうっすらと区切り線のような皺があった。

【5】

おはじきを吐きだすために生まれてきた
/暮田真名
お前なんかどうせ。突然の言われようだった。なぜだか、ぜったいにちがう、と言い切りたくもなかった。口の中で飴を噛み砕く。いっそう広がるレモンの風味に、気がつくと、黄色いおはじきのビジュアルを当てはめていた。

【6】

死んだふり 技巧のなさをほめられる
/嘔吐彗星
■切り株に腰かけた熊が言う。人間は死に対しオーバーアクトだ。理想はなにもしないこと。だって死ってなにもできなくなることだろ。もちろんどんなにうまく死んだふりができても死そのものにはなれないし、もしなれても死だからなにもできないが。

【7】

雨夜のラマダン月夜のベランダマン
/渡辺隆夫
ベランダは演劇の舞台に似ている。断食期間中の雨夜だ。(イスラムでも室内でも)禁止されているたばこが吸いたくなって窓を開けベランダに逃げ込むと、背後でかちゃりと鍵の音がした。シチュエーションコメディの設定が整う音にも聞こえた。

【8】

ほどかれてゆく山コーヒーをもう一杯
/筒井祥文
■コーヒー片手に資料と格闘すること数時間、ようやくめどがついてきた。「ほどかれてゆく」という表現で朝日が引きつけられ、窓の外が白みだす。ねむい。何杯目かのコーヒーはガソリンの色をしていた。とびきりの関税をかけろ。おれから、おれに。


おわりです。今回も作者のみなさんと「即席川柳句合わせ」のみなさんにありがとうございましたの11文字をお送りします。

ありがとうございました

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