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SEE(Single Event Effect)の種類と原理

Single Event Effect(SEE)とは宇宙機、衛星が放射線による影響を受ける現象の一つです。SEEは、電子部品の感応素子にエネルギーの高い重粒子やプロトンが入射した場合に発生する一時的な現象です。その一時的な現象により、結果として部品の機能が損なわれたり、衛星制御ができない事態にまで発展します。SEEとは複数の現象の総称であり、SEU,SET,SEFI,SEL,SEB,SEGR等、それぞれ原理、影響が異なる現象が含まれています。ここでは、それらを詳細な説明をさせていただきたいと思います。

1, 一時的なエラーを引き起こすSEE

SEEの中には、発生した場合においても部品や機器の永久故障までは至らず、一時的なエラーとしてのみ影響を及ぼすものがあります。そのような影響を与える事象として該当するのが、Single Event Upset(SEU)、Single Event Transient(SET)、Single Event Functional Interrupt(SEFI)です。それらを順番に説明していきましょう。

Single Event Transient(SET)

まず、SETについて説明します。SETとはアナログ部品に発生する放射線による一時的なエラー事象です。SETを発生させる要因としては、エネルギーの高い重粒子による電離効果が支配的です。放射線には、衝突した物質中に電子正孔対を生成する性質があります。この性質のことを電離効果と呼んでいます。その例について、以下の図で説明したいと思います。以下のような簡易的な回路系を考えてみましょう。シリコンで構成された半導体に対し、一定の電圧が印加されています。ここで重粒子が衝突した場合、その半導体中に電子正孔対が生成されます。

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この電子と正孔は、印加された電圧に従い、以下のように移動します。その結果、電流、電圧が一時的に増加し、Transient(過渡応答)として現れるのです。

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トランジェントが発生する部品はアナログ部品です。宇宙機、衛星に適用されている代表的なアナログ部品として、オペアンプやコンパレーター、レギュレーター部品がありますが、それらが一時的に出力変動を起こしてしまった場合、FPGAやCPUが誤動作してしまったり、過電圧保護回路を誤動作させ、電源がシャットダウンする可能性があります。その結果として、安定した姿勢制御やミッションの継続を困難とする影響を及ぼします。

Single Event Upset(SEU)

次に紹介するのがSEUです。SEUとはデジタル部品に発生する放射線によるロジック素子の状態変化です。デジタル部品は、CPUやFPGAやRAM,ROM,ADCなど様々ですが、それぞれ部品内部には、0または1の情報を保存するロジック素子があります。SETで紹介した放射線による電離効果により、この0または1の状態が反転(upset)してしまう事象をSEUと呼んでいます。デジタル部品において半導体素子が非常に微細化しており、少ない電力で0または1の情報を保存しているため、エネルギーの高い重粒子に限らず、比較的エネルギーの低いプロトンによっても、容易に反転してしまいます。また、1個の放射線の入射により、1Bit反転に止まらず、複数Bitが反転してしまうような影響も存在します。そのイメージを以下の図に示します。入射した放射線が1Bit領域で停止してしまう程度のエネルギーであれば1Bitの反転のみの影響となりますが、複数Bit領域を貫通してしまう場合、複数Bitの反転が発生してしまいます。

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近年のデジタル部品において、その対策が非常に難しくなっているのが、このSEUへの対策です。近年、nmオーダーのプロセスで製造された部品が一般的に使用される時代になっており、小型化、低電力化、複雑化している部品が非常に多くなっています。そのため、放射線による感受性が非常に高く、上にあげたMBUを含め、SEUにより様々な影響が発生する事態になっています。

Single Event Functional Interrupt(SEFI)

一時的なエラーを及ぼす放射線影響として、最後にSEFI について説明します。SEFIとはその名の通り、部品の機能を中断させる影響を及ぼす放射線によるエラーです。SEFIとは、実はSEUにより影響が及ぼした結果的な事象です。昨今のデジタル部品では、データを保存する機能や、データを送受信する機能、また、それらを制御する機能が内部に搭載されています。この機能のうち、制御部分に搭載されているロジック素子がSEUにより反転してしまった場合、その部品は通常通りの動作を行うことができません。このように制御部分にSEUが発生し、部品の機能が中断してしまう事象をSEFIと呼んでいます。SEFIが発生してしまった場合、数ミリ秒程度で自動復帰する部品もありますが、多くの部品はOFF/ONによるリセットを行うことでの復帰が必要となります。ただし、SEFIは部品の永久故障ではなく、あくまでも一時的なエラーであるため、その機能が永久的に損なわれる訳ではありません。

2, 永久的な故障を引き起こすSEE

続いて、部品の永久故障を引き起こすSEEについて説明します。そのような影響を与える事象として該当するのが、Single Event Latch-up(SEL)、Single Event  Burnout(SEB)、Single Event Gate Rupture(SEGR)です。それらを順番に説明していきましょう。

Single Event Latch-up(SEL)

SELは部品内部にある寄生サイリスタ(PNPN構造)のラッチアップ事象を引き起こすことで、電力を増大させ、結果的に部品を永久故障に導く影響です。ここで、PNPN構造のサイリスタのイメージを以下に示します。寄生サイリスタはアノード(Anode)とカソード(Cathode)とゲート(Gate)の3端子で構成され、通常アノードからカソードへ電流は流れませんが、ゲートに信号を入力するとアノードからカソードに向かって電流が流れます。一度、流れ始めた電流はアノードからの電流を止めることでしかストップしません。この性質を用いて、サイリスタは、部品内部で電力用のスイッチング素子等に適用されています。図にはサイリスタの動作例も合わせて示しています。ゲート電圧をONすることで、アノードに入力された電圧がカソードから出力され、アノードへの入力が負電圧になれば、出力がストップします。これにより、交流の正の電圧成分のみを抽出することができます。

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以上、サイリスタの動作について簡単に説明しましたが、SELとは、放射線による電離効果によってゲートに電荷を与え、一時的にON状態にし、サイリスタを誤動作させる影響を及ぼします。ゲートへの電荷の印加は一時的であっても、サイリスタはアノードからの電流を止めない限りカソードへ電流が流れ続けるため、結果的に短絡状態となってしまいます。また、一般的に部品内部のサイリスタのON抵抗は非常に低いため、多大な電力が流れてしまい、結果として部品の永久故障に至ってしまうのです。

一方、SELは、アノードからの電流を止めることでストップもできるため、過電圧保護回路などを具備し、SELが発生した際に、即座に電源をシャットダウンする設計とすることで、部品を壊さずに、また機器をONさせることで復帰させることも可能です。

Single Event Burnout(SEB)

SEBは、高エネルギーの重粒子の衝突によって発生した電離効果によって、部品内部に局所的な大電流状態をもたらすことで、結果的に破壊に至る現象です。  SEBは、主に宇宙のバイポーラトランジスタとNチャネルパワーMOSFETに影響を与えることとなります。SEBについては、重イオンのエネルギーと適用する電圧によりSEB発生の有無を決める閾値が設けられており、それをSOA(Safety Operating Area)と呼んでいます。SOAの情報については、部品メーカーで試験をしている場合はそのデータを入手する必要があり、もし、部品メーカーでも試験を行っていない場合、試験を行うことでデータを入手する必要があります。SOAの範囲内での適用をしていない場合、SOAの範囲外の放射線が一発衝突しただけで、部品は永久故障に至ってしまうため、非常にリスクの高い設計となってしまいます。

Single Event Gate Rupture(SEGR)

最後にSEGRについて説明します。SEGRは、主にPower-MOSFETがオフ状態のと際に発生しうる事象です。Power-MOSFETに重粒子が入射し、ネック領域を通過する際に、電離効果により電子正孔対を生成します。

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ここで電子はドレイン方向に急速に移動するため、正孔はゲートに向かって移動し半導体とゲートの酸化膜界面に蓄積します。これに伴いゲートには電子が引き寄せられて電子が蓄積されることとなります。この結果、生じた電界が酸化膜の絶縁破壊を発生させることで、ゲートと半導体が短絡してしまいます。

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SEGRについてもSEBと同じく、重イオンのエネルギーと適用する電圧によりSEGRの発生の有無を決めるSOAが試験により決められ、その範囲内で適用することでSEGRを発生させない設計とすることができます。

以上、一時的なエラーを引き起こすSEE、永久的な故障を引き起こすSEEの種類とその原理を詳細に説明させていただきました。ぜひ、設計の参考にしていただければと思っています。もし、質問やコメントなどがあれば、コメント欄に記入ください。

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