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宇宙機器における信頼性解析(概要)

ここでは、宇宙機器における信頼性解析(Reliability Analysis)の概要について記載しています。ここで記載している内容は、宇宙機器に限定した内容ではなく、家電や自動車などすべての機器に適用可能な内容ですが、宇宙機器を例、また、宇宙機器における一般事項を補足し、宇宙機器について具体化しています。その中で、機器を構成する部品に着目して、機器の信頼性を定量化する方法について記載しています。

1, 信頼性の定量化に用いられる指標

信頼度を定量化する際に用いられる指標として、一般的に使われているものが、信頼度、故障率と呼ばれる指標です。信頼度は故障率を残存確率(またはミッション成功確率)の形に変換したものですので、ここでは故障率の算出方法の記載し、別の機会にて故障率から信頼度への変換と、信頼度を用いた衛星システム信頼度算出への適用について触れることとしたいと考えています。

2, 故障率

故障率とは、1つの機器または部品が故障する確率を示しています。よって、故障率が1(/時間)という部品があった場合、その部品は平均的に1時間で1個壊れてしまうことを意味しています。一方、一般的な機器や部品が壊れる確率は非常に小さいことから、故障率の単位はfit(1E-9/時間)という単位が用いられます。つまり、1fitの故障率の部品があった場合は、平均的に1E+9時間に1個壊れるような部品であるということです。1E+9時間とは約11.4万年であるため、1fitとは非常に小さい確率であることがわかります。宇宙用に適用される部品では、抵抗器やコンデンサの故障率は1fitを満たない部品がほとんどですので、複雑なIC部品でも〜100fit程度の部品がほとんどです。そのため、部品ひとつひとつは、適切に適用していれば、故障する確率は非常に低いです。しかし、機器となると、例えば、抵抗器を1000個、IC部品を数十個も適用する機器もあるため、すべての部品の故障率を足し合わせれば、数千fitの故障率となることが一般的です。このように、機器故障率は、故障した場合に機器の機能・性能が損なわれる可能性のある部品故障率を積み上げることで算出されます。よって、部品故障率を算出することによって機器の故障率が算出され、部品故障率をできるだけ低く設計をすることで、故障しにくい機器とすることが可能なのです。

3, 部品故障率の算出方法

2章の説明にて部品故障率を算出することが、すなわち機器故障率の算出であることを示しました。次に部品故障率の算出方法について示します。その方法は大きく2つあります。

(1) 部品の寿命試験データを適用する。

(2)寿命試験データ/フィールドデータを元に作成された算出式を適用する。

まず、(1)の寿命試験データとは、その名の通り、実際に部品を動作させ、部品の寿命を測定することで得たデータです。例えば、100個の部品を動作させ1000時間で1個壊れた結果となった場合、その部品の故障率は、1/100000(/時間)であるということが可能です。しかし、先に述べた通り、実際の部品故障率は抵抗器などで1fit(1E-9/時間)以下と非常に小さいです。よって、現実的には、寿命試験を行った場合においても、なかなか部品の故障しませんので、約1fitの部品の寿命試験を行った場合、100個部品を用意しても1E+7時間、つまり、およそ1140年間の試験をする必要があり、現実的ではありません。しかし、部品故障率の算出方法として、寿命試験は一般的に適用されている方法であり、部品の特性や統計学の知識を用いることで、試験時間を大きく短縮させることも可能です。寿命試験の詳細については、別の機会で記載したいと考えています。

次に(2)について説明しますとこちらもその名の通り、寿命試験データ/フィールドデータによって得た知見を元に、部品の故障を数式化したものです。もちろん、部品は、その設計や製造方法によって故障率は異なりますが、例えば、セラミックキャパシタであれば、どのようなセラミックキャパシタでも同じような故障モードを有しています。例えば、セラミックキャパシタは温度幅の広い熱サイクルが印加された場合、部品へのストレスとなり、クラック等による短絡故障が発生する危険性が高いです。このように部品の種類、特徴とその適用方法によって、故障率がある程度予測可能であると考えたのがこの算出方法です。この算出方法において代表的な方法がMIL-STD-217Fストレス解析法です。宇宙機器における算出方法としては、これまで、また現在においても、MIL-STD-217Fストレス解析法が一般的に適用されております。近年になってFIDESという算出ツールなど、より具体的な条件を用いることで、より現実的な故障率を算出可能なツールも登場しており、海外メーカーなどでの適用が進められている状態です。これらの詳細についても、別の機会で説明したいと考えています。

以上、2つの算出方法について説明をしましたが、ほとんどの宇宙用部品の故障率は、(2)の方法で算出されています。寿命試験は試験条件によって、短縮化が可能とはいえ、容易ではなく、部品の種類も多いため、莫大な時間と労力が生じることとなるためです。よって、一般的な部品においては(2)の方法を適用することが基本となりますが、最新の部品や特殊な部品においては、寿命試験データ/フィールドデータが十分に無く、現在の算出式では算出できない、または不確実性が大きいため(2)の方法を適用せず、(1)の試験を行うことで故障率を算出することが必要となります。宇宙機器でよく適用されるFPGA等の(1)データは、部品メーカーにより試験がされている場合もあります。例えば、Microsemi社の宇宙用FPGAなどは、部品メーカーのホームページからその情報が入手可能です。

4, まとめ

以上、宇宙機器の信頼性を定量化する方法を説明しました。宇宙機器においては、故障率という指標を用いることで信頼性を定量化することが一般的であり、故障率の単位はfit(1E-9/時間)が適用されます。また、機器故障率は、故障した場合に機器の機能・性能が損なわれる可能性のある部品故障率を積み上げることで算出され、部品故障率は、(1) 部品の寿命試験データを適用する。(2)寿命試験データ/フィールドデータを元に作成された算出式を適用する。ことで算出されます。(2)の算出方法において代表的な方法がMIL-STD-217Fストレス解析法ですが、近年になってFIDESという算出ツールなど、より具体的な条件を用いることで、より現実的な故障率を算出可能なツールも登場しており、海外メーカーなどでの適用が進められている状態です。

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