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夢現徂徠

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ロマンの織物/澱物
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#秋

残夏

 黄昏に音割れした『新世界より』が響く。17時だ。何処から鳴っているのだろう、と見上げた目が西日をかすめて思わずくしゃみが一ツ出る。  もう夕方は半袖だと肌寒い。あれほど囂しかったヒグラシも鳴りを潜めた。そろそろ夕涼みもおしまい、明日から散歩は午前中に戻そうかとてくてく行きつつ考える。  けだし「夕涼み」は夏の季語である。暑かった一日の終わりに涼風を迎える慣わしのことだ。蚊取り線香と風鈴のある縁側や軒先が思い浮かぶ一方、「夕涼みに出る」で散歩を表すこともある。  似たこ

めげずくじけずダンディズム

 上京したてのころ、最寄りの駅前にある某アメリカ産チェーンのバーガー店によく通っていた。地理か英語かの教科書でしか見たことなかったハンバーガーが100円(当時)で、これが大東京かとお上りさんの目には輝いて見え、それで腹を満たして講義に出るのがスタイリッシュだとオシャンティだと思っていた。バカである。  ある深夜、なんの帰りか、立ち寄った。客も店員もまばらな中、注文してボーッと待っていると、奥から出来上がったバーガーひとつが二三歩の幅の調理台を滑ってきた。  「ファスト」の