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『女子大に散る』

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成熟まぎわの花々を活写しつつ条理なき「大学」を剔抉する連作短編集、各4000字程度・第一部として全10話。
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2024年4月の記事一覧

『女子大に散る』 第3話・黄白い誘惑

 十月初週、後期授業が始まった。秋雨つづきで鬱々たる中およそ二ヶ月ぶり大声で270分しゃべり続けたせいか、三限の一年生クラスを終えたころにはクタクタだった。 「先生……」  次の教室へと散ってゆく花々を尻目に座り込んで、教卓を挟んで目前に来ていた一輪にも声をかけられるまで気づけなかった。 「ハイハイどうしました」  とにかく腹が減っていた。早起きも久しぶりで朝はバナナにヨーグルトで間に合わせ、それから七時間あまりお茶と煙しか喫んでいない。それまでも昼はアメ玉で凌いでい

『女子大に散る』 第2話・天使のケア

「子供みたいなこと言ってんじゃないわよ!」  午後4時半すぎ、講師控室へと戻るため渡り廊下にさしかかったら、くぐもった怒鳴り声がした。なんだなんだと目を上げるや、 (あっ先生)  突き当たりに見慣れた顔が覗いた。二年生のHさんだ。 (こんにちは) (おとといぶり~)  続けてぽろぽろ覗く。丁寧な会釈のMさん、ひらひら手を振るIさん、そろって実技科目の後らしく白衣姿である。小声なのでひとまず真似して、 (Aさんはお休みですか) (せっ、きょう、ちゅう) (バイ、アン