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戯作創作

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胸に一物、背中に荷物。(織田作之助)
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#眠れない夜に

寂しいおじさんと二年後に死ぬ乙女

 乙女に「おじさん」と渾名されるは快、「寂しい」まで添えられれば欣快の至りだ。こちらが独身独居とか俗世的交際ぎらいとか足腰の衰えありだとか公言せずとも嫋やかなる目は全部お見通しで、そんな時ばかりその奥にシャーロック・ホームズばりの洞察力が冴ゆるを見るも心憎い。 「はいどうぞ」 「……先生なんか慣れてる」 「慣れてる?」 「スタバよく来るんですか?」 「たまにな」 「え~もっとあたふたするかと思ったのに~」 「なんだそれ。だからスマホ構えてたのか」 「そ。緊張してるかなって」

暑気祓い

 おや、今日は電灯カバーに張り付いているのかい。昨日は浴槽まわりをぴょんぴょん跳ねていたのに、まさに神出鬼没だな。  そんな天地のひっくり返ったままでいて、よく落ちないもんだね。ありがたいよ、手元にポトッてご登場をされると反射的に本ごとバチンと潰しちゃいかねないし。すんでのところで躱かわしたきみと「脅かしっこは無し」って約束したの、もう去年か、早いなあ。  あれ、もしかしてきみ、去年のあいつとは違う? どうも一回りほど小さいみたい、まさかあいつの子じゃないよね。そもそもき

短編小説 月下

【縦書き 2958字 全8ページ】

短編小説 薑

短編小説 悲嘆惨憺ダップンタン

 午後3時過ぎ、電車に乗り込み尻を落ち着けたとたん、朝にコーヒー昼に水あと飴ふたつ以外なにも入れていない腹がグルルとわめいた。どうも夜まで保ちそうにない。  最寄りに着いて、駅ビル2Fの寿司屋に直行した。閑散たるカウンター席をひとり占め、百円皿をよりどりみどり食い喰らう。あおさ味噌汁シメに飲んだらうつらうつらとやって来て、さっさとお会計に立った。 「ありがとございましたあ」  学生アルバイトに見送られ階段を下り、秋空の下に出るや、へそ下がギュルルとうごめいた。目方5kg