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『五枚めくり』

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実学全盛時代に文学部を博士課程まで進んでしもうた三十路どん詰まりワンルーム独居男のエッセイ集。四季折々の散歩漫遊また退屈鬱屈の常住坐臥に思い描く意想夢想を綴る、各5枚=2000字…
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#今こんな気分

花と芥のフラグメント

 三月末に母の誕生日がある。大学は春季休暇の終盤で、非常勤講師ごとき親不孝者にも暇ができるので、今年も帰省した。  帰省中は母とよく散歩するが、折からの陽気のせいか今年は桜が満開だった。過疎と高齢化を極めつつある山国の片田舎では人出もなく、そよ風にちりめくさまを毎日のように堪能できた。 「おおっ」 「綺麗だねえ」  桜木の春たけなわに綻びて万朶の命いざと散りなむ。この色、この風、この潔さ、これぞ春である。  去年と同じく、十八年前から同じく、四月初旬の新横浜駅にひとり