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三月末に母の誕生日がある。大学は春季休暇の終盤で、非常勤講師ごとき親不孝者にも暇ができるので、今年も帰省した。 帰省中は母とよく散歩するが、折からの陽気のせいか今年は桜が満開だった。過疎と高齢化を極めつつある山国の片田舎では人出もなく、そよ風にちりめくさまを毎日のように堪能できた。 「おおっ」 「綺麗だねえ」 桜木の春たけなわに綻びて万朶の命いざと散りなむ。この色、この風、この潔さ、これぞ春である。 去年と同じく、十八年前から同じく、四月初旬の新横浜駅にひとり
物心ついたころから冬好きなのは確かなのに、持病の腰痛のせいで年々冷えと寒さが億劫になってきている。今年もお彼岸ごろまで散歩すらままならないほど不如意が続いて、仕事を除けば食糧調達くらいでしかロクに外出していなかった。 年度改まり心機一転、まだ日によっては固い腰を引きずってリハブにと歩きだした。マンションの階段を下りているだけで左側が尻までジンジンするので、「あんよは上手」の要領で右足左足ゆっくりのっそり、さながら冬眠明けのクマだ。 前に読んだ江戸期の典籍に、雪山で遭