【大嫌い】#過去作ナンバー無し
先生
先生の事が
大嫌いです
そういう紙切れを
女子生徒に手渡された
こういうのを貰うと
逆に意識をしてしまいますね
理由も書かず
ただ
大嫌い
だと
今週はまだ後二回は僕の授業
あるんだけどなぁ
それから7年後
生徒たちの同窓会に
担任でも無いのに
呼んでもらえた
そこには
大嫌い子ちゃんも居た
他の生徒たちとは
本当に和気あいあいとお話しできたのだが
僕も人間
どうにも意識してしまう
二次会ではカラオケだった
カラオケには担任である山下先生と参加したが
どうにも付いて行けず
一時間くらいで退散した
カラオケBOXを出て一人で何処かで飲み直そうと考えながら
何故か時計を見ていた
そしたらだ
後ろからトントンされた
振り向くと
大嫌い子ちゃんが
そしてカラオケBOXのコースターを手渡された
裏を見ると
大嫌い
そう書いてあった
凄く動揺した
大嫌い子ちゃんを見ると
ニコニコしながら
おいでおいでしている
「先生
大嫌いな先生
ちょっと私に付き合って下さいよ」
半ば強引に連れて行かれた
僕はBARで飲み直す予定だったのだが
着いた先は明かりがやけに眩しいファミリーレストランだった
私はブレンドコーヒーを頼むと
ウエイトレスはドリンクバーを勧めてきたのでそれに従った
不味いコーヒーを飲みつつ
目の前には
大嫌い子ちゃんがいる
あまりいい時間の流れ方では無い
「先生
すぐ終わるからね
先生
私ね来月結婚するの
同じ会社の人とね」
「そうなんだ
おめでとう」
「月並みだなぁ
まぁいいや
でね
多分
独身で先生に会うのは
最後だから
これだけは言っておきます
大嫌いです
では
私はこれで」
そういうと
飲み物も来ていないのに
帰って行ってしまった
なんなのだ
改めて言う事では無いだろう
しょうがないので
不味いコーヒーを飲み干し
帰る事にした
裏向けだった伝票のバインダーを手に取ると
メモが挟んであった
そこには
大嫌い子ちゃんの携帯電話番号とその携帯電話のメールアドレスが書いてあった
そしてその下には
24時間以内に連絡を入れるように
とそれだけが書いてあった
困ったなぁ
まぁいいだろう
次の日
仕方なく
メールだけしておいた
返信は無かった
なんなのだ
それから10年して
また同窓会に呼ばれた
全員老けてきた
なかなか面白い
何故か真っ先に
大嫌い子ちゃんを探している自分が
大嫌い子ちゃんは居なかった
理由は知らない
そういうのは聞かないたちなので
同窓会も終わり
家路に着いた
気付けばもう40代だ
子供たちは元気にしているかな
そう
私は今
バツイチの独身である
大嫌い子ちゃんは
幸せな結婚生活を送っているのだろうか
更に10年の月日が経った
私は市内で一番大きな本屋さんで本を探していた
紙とインクの匂いが心地よい
すると突然
背中をトントンされた
振り向くと
あの
大嫌い子ちゃんだった
私はたいそうビックリした
大嫌い子ちゃんは言った
久しぶりに会ったんですから
これからランチでもご一緒できませんか?と
私も大して予定も無かったので
従った
着いたのは
日本家屋を程よく改装した蕎麦屋だった
いい趣味しているじゃないか
二人とも天ザル定食とキンキンに冷えたビールを頼んだ
大嫌い子ちゃんは私同様にバツイチになっていた
今は恋人がいて
来月結婚するらしい
「おめでとう」
「月並みだな
先生は」
店を出る前に
今度は目の前で
堂々と
携帯電話番号とその携帯電話のメールアドレスと「先生大嫌い」を書いて手渡してくれた
そして24時間以内に連絡を入れるようにとも
私は笑ってしまった
大嫌い子ちゃんも笑っていた
二人は店を出て駅まで一緒に歩いた
方向が違うので
駅で別れた
そして律儀な私は次の日
メールをした
どうせまた返信は無いのだろう
それから3年後
別の卒業生から連絡があった
大嫌い子ちゃんのお通夜が今夜あると
私はものすごく動揺した
膝がガクガクした
急いで準備し
駆け出すように外へ出た
扉にメモが挟まっていたようで
扉を開けたと同時にヒラヒラと舞いながら落ちた
白いメモ紙だ
私は拾い上げ
そのメモを見た
筆跡は大嫌い子ちゃんだった
そんな筈は無いのに
そしてこう書かれてあった
「先生
ありがとう
私は本当に
先生の事が
大嫌いでした」
最後までこうだ
しかし
よーく見ると
嫌いの上にルビがふってあった
「スキ」
と
何かが頬を伝った
それから一年が経った
今日は夏でも特に暑いな
「私も大好きだったよ」
墓石に向かい
そう話しかける
八月の私がいた
ほな!
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