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第82回優駿牝馬(2021年) [競馬ヒストリー研究(45)]

昨年2021年のオークスを制したのはユーバーレーベン。同年の3月19日に死去した岡田繁幸氏が代表を務めたビッグレッドファームで生産され、サラブレッドクラブ・ラフィアンが所有する同馬の劇的な勝利で競馬ファンが大きな感動に包まれたことは記憶に新しい。

 

岡田繁幸は1950年に北海道静内町で牧場を営む岡田蔚男の長男として生まれた。家業を継ぐために日本大学獣医学部へ進学するも、結核を患い中退。だが馬産への情熱を失うことなく単身渡米して修行した。

帰国して実家の牧場へ戻るも、"鬼軍曹"と呼ばれた父と経営方針を巡って対立し、独立。1974年にビッグレッドFを開設した。モガミナイン、マイネルアムンゼン、マイネルチャールズといった生産馬が活躍し、牧場の規模も拡大していったものの、生産馬によるGI級競走の勝利には2009年の天皇賞春をマイネルキッツで勝利するまで35年も要する。

その後はマイネルネオス、ドリームバレンチノ、ディアドムスらがGI級競走を制し、96年に開場したコスモビューFでは香港でGIを2勝したウインブライトを生産した。

 

また、彼を語る上で欠かせないのが「マイネル軍団の総帥」「相馬眼の天才」という2つの代名詞だ。その原点は米国修行時代に1頭の仔馬を見出し、Ruffianと名付けられた同馬が後に無敗でニューヨーク牝馬三冠を達成した、という逸話である。

牧場を開設して10年が経った1984年、岡田は三石の小牧場で1頭の1歳馬を見つける。自ら馬を所有することには反対していた父蔚男も「あれなら俺も使ってみたい」と言う程の素質馬であった。同年の暮れに死去した父の思いを乗せ、グランパズドリームと名付けられたその馬は2年後に日本ダービーで2着した。そして同年に岡田はクラブ法人のサラブレッドクラブ・ラフィアンを設立。購入した幼駒を自ら鍛え上げ、ダービー制覇を目指す大いなる夢を追いかけることとなった。

そしてマイネルマックス、マイネルラヴ、コスモサンビーム、マイネルレコルト、コスモバルクといった購入馬がGIを制し、先述のような異名でその名声を轟かせていった岡田。日高中の牧場を回り、自らビデオカメラで仔馬を撮影するなどして原石を発掘。それに留まらず後年には地方競馬から大レースを目指すという壮大なロマンまで現実に実行してみせた。

 

その岡田にとって”最後の傑作”となったのがユーバーレーベン。ニュージーランドから輸入した曾祖母マイネプリテンダーを基礎牝馬とし、祖母のマイネヌーヴェルやその弟マイネルネオス、マイネルアワグラス、マイネルチャールズが重賞を勝利した牧場の軸である牝系に、ロージズインメイとゴールドシップという自ら導入した種牡馬を重ねた、まさにビッグレッドFの結晶と言える血統の下誕生した。

美浦の手塚貴久厩舎に入厩し、2歳の6月にデビュー勝ち。以降は重賞を3戦し、いずれもソダシの前に敗れたものの、2戦目の札幌2歳S、暮れの阪神ジュベナイルフィリーズでは小差まで詰め寄り、翌年のクラシック戦線に期待が持てる内容で2歳シーズンを終えた。

 

3歳シーズンはフラワーCから始動。ここで3着に敗れると桜花賞出走を諦め、オークストライアルのフローラSに出走。しかしここでも3着に敗れて優先出走権を得ることが出来ず、収得賞金額も加算することが出来なかったが、最終的には12位タイの出走順位でゲートインが叶った。

桜花賞を5戦5勝で制したソダシが単勝オッズ1.9倍で1番人気に支持され、僅差で2着していたサトノレイナスが日本ダービーに向かったこともあり、同4着のアカイトリノムスメが4.5倍で2番人気。8.9倍の3番人気でユーバーレーベンが続いた。

 

それまでと同様に中団から後方を進んだM.デムーロ騎乗のユーバーレーベン。レース前半は比較的ペースが流れたが、向こう正面の後半から3コーナーにかけてペースが緩むと、すかさずデムーロが馬群の外に出してポジションを押し上げる。同じように進出したスライリーの直後に潜り込んで4コーナーを回り、直線は大外から差し脚を伸ばす。伸びあぐねるソダシを坂上で交わし、残り200mで先頭に立つと、内外に分かれて強襲するアカイトリノムスメやハギノピリナを退けて1着でゴール板を駆け抜けた。

ゴール後、デムーロは雄叫びを上げ、ウイニングランでは何度も指を上に差し、最後はステッキを天に向かって真っ直ぐに突き上げた。天国の岡田に勝利を報告した彼はレース後「感動した。勝って(岡田繁幸氏を)思い出した。昔からいい馬に乗せてもらったし、良かった」と語った。

 

競技としてのレベルが向上する一方で、以前よりドライな雰囲気も漂い、競馬人気を支える柱の一つであるロマンが薄れたと感じるファンも増える時代にあって、このレースは間違いなく2021年の競馬シーンにおけるハイライトと言えるのではないだろうか。

ユーバーレーベンという馬名の由来はドイツ語で「生き残る(=Uberleben)」という意。生前の岡田が何度挑戦しても叶わなかったクラシック制覇を、涙を飲んだ35年前のダービーと同じ勝負服で果たしたこの日の東京競馬場には、彼のホースマンとしての魂が確かに生きていた。そして間違いなくこれからも岡田が遺した血が日本の競馬界に生き残り続け、ターフを沸かせてくれることであろう。夢に生きた伝説のホースマン岡田繁幸を我々は決して忘れることはない。


桜花賞が内枠のスピード馬に有利なレースとなっただけに、その点がオークスを予想する上で最大のポイントでしょう。

外枠を引いて敗れたのは、上位から順にサークルオブライフ、ベルクレスタ、ナミュール、プレサージュリフト。着差は僅差でしたので、ここから上手くチョイスすることも大事そうです。

桜花賞上位組が信頼できないとなると別路線組の台頭にも期待できそうです。アートハウスの忘れな草賞は直線抜け出してからラスト1F11秒1と更に加速。距離が延びて楽しみです。


それではー

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