創作(1)「丸薬」


丸薬

 「和」という国にオヒシバという商人がいた。彼は2つの飴のようなものを手に、今日も市場で意気揚々と商いをしていた。

「さぁ、よってらっしゃい、見てらっしゃい。今朝の土産は一味違 う。唐の薬を特別な技で調合したこの丸薬。聞いて驚くな、こちらの赤い丸薬を食べれば、なんと言った事が全て嘘になる。真っ赤な嘘とはよく言ったもんだ。」
オヒシバの舌は止まらない。
「一方こちらの青い丸薬。食べればなんと、言った事が真実となるのだ。とにかくすごいこの丸薬。今なら安く売って. . . 。どうした、兄ちゃん?」
「あの、聞きたいことがあるんですが。この丸薬を. . .」
オヒシバの前に現れた客人がそう言いかけた時、彼は苦い思い出を脳裏に蘇らせていた。

そうだ、俺は昔楚の国で一度失敗したのだ。あの時は、とっさの質問に「この矛と盾は、同じ人が使って初めてその効果を発揮するのです。」と言えなかった。だが、もう同じ過ちは繰り返すものか。

客人の質問を遮るように、オヒシバはこう言った。
「おっと、すまんよ、兄ちゃん。この丸薬は1人で使わねぇと効果が出ねぇんだ。だから、例え俺とアンタが丸薬を一粒ずつ飲んで同じ事を言っても、何も起きやしねぇんだ。」
我ながら頭がいい、とオヒシバは思わずにはいられなかった。
「あぁ、そうなんですか。ただ、僕が聞きたいのはそういうことじゃないんです。この2つの丸薬を一人で同時に飲んだらどうなるんですか?」

其雄日芝応ふる能はざるなり。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?