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神だって超える#5

 意思を持った生命体の存在する惑星は40。それ以外の生命物体惑星に神は関与しない。下位神250名。中位神100名。上位神50名。そして、万能神3名。
 これらの人数は揺るがなく、神が消滅するまでは入れ替えもない。一人ずつが担当の惑星を受け持ち、一つの惑星のバランスを保つ役割を目指す。万能神とは、たった3人で40の惑星の監視、及び管理をする立場にあるのだ。この割合は黄金ピラミッドとされ、人間には到底考え及ばない年月を、繰り返し維持され続けていた。

「つまり、社長みたいなことだろ?」

 説明を受けたミチは、企業組織図を思い浮かべた。そこに当てはめていけば、なんとなく分かってくる。下位神=従業員、中位神=中間管理職、上位神=エリア長、万能神=社長。
(ざっとこんなもんだろう。全能神が総理大臣で全知神は……これは、まあいいや)

「理解の仕方はミチに任せる。とにかく万能神は3人で幾数の惑星を管理しなければならない重要ポジションなの」

 アリオットが挨拶をして去った今、ヴェリーとマクマから説明を受けるミチは、神界について理解を深めていく。

「その万能神になるには、十の神の認血アドミティが必要ってわけだね~」
「その認血ってのは一体どういう意味だ?」
「認めた相手に、自らの血を分け与える儀式と言えば分かる? 神にはそれぞれの特化分野があるの。例えば、マクマ様は豊穣の神として自然分野に大きく携わっているの」

 チラリとマクマを見たミチに対し、彼女は相変わらず緩い表情でピースサインをしてみせる。彼はそれに対して無反応を示し、マクマの位置づけを考える。
(差し詰め、環境大臣といったところか)

「分野ごとに十の神の血を摂取することで、言葉の通り万能の力を得る。それが万能神。ちなみに万能神の種によってしか、その力は発揮されないの」

 万能神の在り方には理解を心得た。まだまだ聞きたいことが山積みであったが、先に済ませておきたい話がミチにはあった。

「万能神の成り方は分かった。で、俺は今どういう存在になるんだ? ヒューマンのままなのか、既に神になっているのか。神力が使えたってことは、神の一員になったことだとは思うが」

 パチンと指を鳴らしたのはマクマだった。彼女は嬉々として説明を率先して受ける。

「今の君はヒューマンと神の中間だよ~。仮に”ハーフゴッド”としておこう。だからこそアリオット様もアタシも君の力に惹かれちゃったんだよね~。普通はありえないからね~。完全に神になっていない状態で、あんなレーザーをドビューンって出すなんて」
「はっはっは、まあ俺だからな」

(ゴジラをめっちゃ観ていただけなんだがな。正直、重さも構造もよく分かっていなくて出来たんだが……これって言ったほうがいいのか?)

 簡単にやってのけてしまったことを話せば、万一にも中位神であるヴェリーのプライドを傷つけるかもしれない。そんな計らいが出来る自分はひょっとして中々イカ・・した男なのではないかと、密かにミチは思った。

「な、なによ」

 自分の顔を見てニヤけるミチに、ヴェリーは戸惑いと悪寒を走らせた。ふっと我に返ったミチはもっと大事なことを聞かなければならなかったことを思い出す。

「万能神にならなかった場合、俺は元の世界には戻れるのか?」

 その問いに、二人の神は同時に目を逸らした。嫌でもなんとなく察してしまうような反応に、彼は下手くそな笑みを浮かべた。

「ひょっとして、もう帰れないのか? もしかして、俺は向こうでは既に死んだことになっているんじゃねえだろうな」
「死んだというよりは、消えたことになっているのが正しいかな~。今から君に提案できるのは2つだけだから聞いておいてね~」

 ヴェリーがマクマへ顔を向ける。自分に任せておけとマクマは微笑んで頷いた。ヴェリーは申し訳なさそうに顔を下に向ける。彼女としては、ミチをこの状況に置いた責任がある。神の傲慢なんかで、いくら最下位種族のヒューマンといえども、人生を狂わせたことには違いない。たといそれが、ゼウスが進言した人物に種を植え付けられていたとしても……。

「1つ。万能神になるということは、完全な神に成りあがるということ。その場合、ヒューマンとして生きてきた君の存在は無かったこととなる。つまり君の住んできた世界では記憶改変が行われ、君は最初から存在しなかったことになる」

 なるほど。これがいわゆる”神隠し”ってやつか。と、ミチは意外にも冷静に受け取った。

「2つ。万能神への権利を失うか自らが権利を捨てる場合、全能神様によって万能神の種は回収され、君は消滅する。半分はヒューマンのままだから記憶改変は行われず、君がいたという事実は消えない。ただ、神界で肉体が滅びる為、君の住んでいた惑星では君の死体は発見されないけど」

 なるほど。つまりこれも”神隠し”ってやつだな。いずれにしても二度と地球には帰れない事実だけが頭にこびり付く。ワシャワシャと髪を掻き、なんとか冷静さを保とうとした。

「神になれば、不老不死になるのか?」
「う~ん。半分正解、半分ブッブ~ってところかな~」
「ああ、そうか。ゼウスってやつは消えてしまったもんな。今までの話の流れからして、神の命は種によって維持されているってところか」
「お~頭が冴えているね! その通りだよ~。神には寿命もなければ外傷で死ぬこともない。けれど、体内に存在する種を抜かれた瞬間に消滅する。心臓の代わりではあるけれど、血流で作用するわけじゃないし、劣化もないのが特徴的かな~」

 だから神の定数は安定するわけか。神になった瞬間、生命の常識は常識ではなくなる。種によって生きる神は、むしろ神々しい反面にある束縛された闇のようなものさえも感じた。種とは一体誰が作り出されたのか。いや、むしろ反対か? 種が神を作り出したのか。
(鶏が先か卵が先か……。なんかそういうネタがあったよな)

「まあ、その辺は追々知っていくか」

 と、ミチは立ち上がり、俯き加減のヴェリーの頭の上にポンと手を置いた。彼女は面食らった顔をでミチの顔を見上げた。

「なに、そんな暗い顔をしているんだよ」
「だ、だって、今の話を聞いたでしょ? もう元の惑星には帰れないんだよ……」
「案外、心は安定している。大した人生でもなかったしな。それよりもこっちの世界のことに興味が湧いた」
「おお! それってつまり~?」
「俺は神になる。そして、全能神になってやる!」

 空耳だろうか。彼は確かに全能神と言った。ヴェリーもマクマも目をピクピクと瞬き、耳の穴をかっぽじって訊ねる。

「今、全能神って言った? 万能神じゃなくて?」
「ああ、そうだ! 俺は全能神になる! さらにその先――神を超える存在になってやる!」

 どういう経緯で彼の心がそうも変わったのか、二人には理解ができない。それでも、なぜか自信ありげに発言するものだから、沈んでいた自分が馬鹿らしいとヴェリーは思うのだった。

「キャハハハ! 君、面白いね~。うんうん、君ならやれるかもしれないね~」
「おう! その一歩前進として、マクマ。お前の認血を俺に寄越すのだ」
「アハハ。それはまだダメだよ~。アタシはまだ君に心を許してはいなんだ~」

 あっさりと振られたミチは上体を崩して顔の中心に皺を寄せる。やはり、そう簡単には事は進まないか。と、残念に思いながらも、どうもこのアニメやドラマのストーリー展開に燃え上がる。次第に主人公に心を開いて集っていく仲間達。そういった構想は子供の時から好きだった

「よっしゃ、ヴェリー! さっさとホーリッドへ行って仲間集めだ!」
「仲間集め……?」

 どうも噛み合わなかったが、こうしてミチとヴェリーの惑星統一のミッションが開始されるのだった。

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