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神だって超える#6

 ホーリッドは神の間では銀寂ぎんじゃくと呼ばれる銀河の中にある。名の由来は銀髪の戦神:ディレイトが、ホーリッドに暮らす種族に対して怒り狂ったからだとか。
(惑星のバランスを護る神とは一体……)
 先が思いやられながらも、ミチ達はホーリッドへと足を踏み入れることになる。

▼ホーリッド▼

「はい、先生。質問があります」

 神界からテレポートを使用して到着した一行。まだテレポートのイメージが湧かないミチはヴェリーの手を借りて未開の地に降り立つ。

「は~い、そこの君! 一体どうしたんだい~?」
「神界にはどうしてホーリッドの神々はおらず、我々がわざわざ足を運ばなければいけないのでしょうか?」
「それは簡単。彼らは神界では厄介者として、他の神から除け者にされているからです」
「なるほど、そうなんですね! って、マジか!」

 確かゼウスさえも手を焼いて諦めたと云っていた惑星だった。惑星の問題は、そもそもそこを守護する神達に問題があったのか。どうやら一癖も二癖もある輩ばかりのようだ。

「それに神界でのんびりしている神は、担当する惑星が安定期に入っているから特にすることがないの。だから、マクマ様が神界にいることに私は驚きました」

 最後は少し棘のある物言いでヴェリーがマクマに顔を向けた。図太い神経を持っているのか、マクマはにっこりと笑ってピースサインを作る。やれやれ、こんな能天気な神だからホーリッドは荒地ばかりなのか。ヴェリーが物憂げに首を振っている横で、周囲を見渡していたミチは深刻な表情する。

「これ、本当に人が住む場所か?」
「ここに住む種族はベベットよ」
「ベベット?」
「あー、ミチの惑星の言い方だと”魔人”ってところかしら」

 魔人……、そうそれ即ち、地獄に生存するといわれる人型をした悪魔。ミチの脳内でどれだけ変換しようとも、やはり浮かんでくるのは悪に満ちたソレ・・だった。

「なるほど、神達も見捨てるわけだ」

 急遽、遠い目をしだした彼にヴェリーは肘で小突いてやった。

「あなたの想像するものとは少し違うわ。あと、想像するのは構わないけど、いちいち想像したものを出さないで」

 彼女の指さす方向に、上半身裸で筋肉質な小麦色ボディ。大剣を手に携え、濃厚な紺色に輝く兜と同色のショートメタルパンツを身に付けた男。ミチの想像した魔人が目の前に立っていたのだ。

「うわっ! 人も作れるのかぁ。ん? てことは、あんな女優やこんなモデルを想像して創れば……ムフフ」
「は~い。そこまで~。想像コントロールがまだ出来ていないみたいだから、アタシが特別に抑え込んであげるね~」

 ポンと頭を叩かれた瞬間、どうもやましい考えが消え去った。何度も頭に浮かべようと試みたが真っ白な状態だった。

「君の思考に性的発想が組み込まれないようにイジってあげたよ~」
「はぁ? ふざけんなよ!俺からピンク色の妄想を取ったら、これからどこでイチャイチャすればいいんだよ!」

 二人に白い目を向けられても、ここは譲れないミチ。

「では、僭越ながら私めがイチャイチャというものをお相手しましょう」

 野太い声。想像上では年齢の設定を詳細に考えたわけではないが、なんとなく40代だとミチは思うことにした。とにかく創造した魔人が喋るものだから、控えめに言っても気色悪い。

「いらねえよ! なんで、魔人のくせにそんなに丁寧な喋り方なんだよ!」

 確かに性格についても正確なイメージをしていなかったか。にしても、どうしてこうなった。まあ、本物の魔人の性格で現れなかっただけマシか。

「うそぉ~。創造物が喋ってる~。しかも意思があるのかな~。アタシでも感情の入ってない人形・・しか作れないのにぃ~」

 興味津々に魔人の身体に触れて観察するマクマは、やはり最終的に魔人の股間の中心をツンと指で押す。だが、全く動じない魔人がギロリとマクマを睨みつけるのだった。

「ア、アハハ……。ごめんってば~。もうしませんから~」

 魔人から逃れようにミチの背に隠れるマクマ。その様子を見て、ミチはピーンと閃く。

「なあ、創造したモノって勝手に消滅をするのか?」
「ううん。一定の強い衝撃を受けるか想像主が消滅するか。あとは頭の中で想像主が消えることを望めば」
「ふっふっふ、なるほどなるほど。では、君には私と共に来てもらおう」

 ミチは自らが造り出した魔人の肩をパシパシと叩いた。彼が産みの親だからか、魔人は膝をついて従順な姿勢を見せる。

「は! 貴方様と同行できることを嬉しく思います」
「うむ。お前の名は今から――タナカだ」
「おお、素晴らしい名を頂き有難き幸せ!」

 どこかで聞いたような名だなとマクマは思ったのだが、どうも思い出せないでいた。随分と近い日に聞いた名のだが……。

「まさか、こんな上半身裸の奴と一緒に歩くっていうの?」
「ふふふ、やきもちを焼いているのかな? ヴェリーちゃんよ」
「どうしてそうなるのよ!――もう、遊んでないでさっさと行くわよ!」

 不機嫌になったヴェリーが歩き出そうとしたところをマクマが伸びやかな問いで足止めをする。

「ねぇ~どこに行くの~?」
「どこって十の神を探しにですけど……」
「ん~、どこか見当がついてるのかな~?」
「それは……」
「待て待て。お前達は特定の人物を感知することができるんじゃないのか」
「同じ神を相手にした時は無理なんだよ~。神にもプライバシーっていうのはあるんだ~」

 つまりはここからは自力で探していくしかないということになる。見る限り辺りは荒れ果てた地で、草木一つもない。干からびた地はヒビだらけだった。ミチはマクマに口を尖らせ、

「お前、働けよ」
「嫌です~」
「一緒に同行しておいて俺に協力する気あんのかよ……」
「それとこれとは話が違うの~。あ、そうだ! 此処から南に進めばエルバンテっていうホーリッドで一番栄えている場所があるんだ~。そこにいけば誰かはいるかも~」

 話をすり替えやがった。と、思いながらも、ミチには目の前に広がる光景から繁栄している街のイメージが湧かなかった。豊穣の神がサボっていて繁栄は可能なのだろうか。僅かに好奇心が生まれる。

「よし、まずはそこに向かってみよう」


▼エルバンテ▼

 額に蠢く瞳。三つ目の男は棲息していた大サソリを生きたまま食す。最近では大サソリの養殖がブームとなっており、それを生業としている者も多かった。

「いかがでしょうか?」
「ああ、悪くはない。だが、少し臭いがきついな」

 彼は大サソリに評価をつける。その点数が売値の相場に大きく影響するのだ。養殖業の人間が一人帰ると、次の養殖業が訪れ、自分の大サソリは絶品ですと営業を始める。

(……飽きた。非常に飽きたぞ。大サソリはもう見たくないんだが)

 三つ目の男の心を誰も知らない。この街では大サソリ以外に食べる習慣がなかった。

「うむ、この大サソリは実にサソリらしいサソリの味をしているな」
「は、はぁ。ありがとうございます」

 また評価を付け、養殖業は立ち去る。

「だめだー! サソリ、飽きたー!!」

 遂に我慢の限界に達した三つ目の男は天を仰ぎ、魂が抜かれたように血色を失っていった。

「失礼します。今夜はリリブ様の生誕祭ですので、街の者が間もなく集まりだすかと。リリブ様からのお言葉を皆、楽しみにされています」
「ああ、分かっている。いつもの調子で適当に言っておく」

 リリブに付き従うメイドは深々と頭を下げて去ろうとした。が、リリブは慌てて引き止める。

「生誕祭に出てくる飯のメニューを教えてくれ!」
「は、はい……。今夜は特別なため、いつもと大きくメニューが違いますよ」
「ほ、本当か!!」
「ええ。今回は大サソリの茹でたものとなっています」
「また、サソリじゃねえかよぅ!」
「前回の生誕祭の時には、サソリの炎焼きだったので、今度は触感を大きく変えてみました」
「あっそうかい。もういい……」

 手の甲を振ってメイドを追い出した三つ目の男は、自分の目を手で覆い隠す。とはいえ、額の目だけは瞼を閉じているのだが。
(頼む、誰かこの地獄から救い出してくれ!)

 彼は切実に願ったのだった。

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